今年も恒例のベストです。例年どおり「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんで、ひとつヨロシク。
(リンクはすべて過去の記事)
今年見た映画ベスト5(53本)
1.
『野火』2.
『砂の女』3.
『彼岸花』4.
『ゆきゆきて、神軍』5.
『愛の新世界』 今年は映画もドラマも本も少なめで選択肢自体が少ないため、なかなかショボいラインナップになっているが、ご了承いただきたい。
選んだ映画は全部邦画で、しかも再見映画ばかり。昨年、一昨年同様、過去見て感心した映画を生きている間にもう一度見ておこうという意識が働いているわけ。
『野火』は、以前見たときはあまり印象に残っていなかったが、今回は随分感心した。短い映画の中に戦場が凝縮されていて一瞬たりとも目が離せない。しかもユーモアの要素も適度に盛り込まれていて、市川崑作品の良さが詰まっている映画と言える。
安部公房・勅使河原宏コンビの作品は、『他人の顔』、『おとし穴』など秀作揃いであるが、『砂の女』はその中でも代表的な作品である。不条理な世界に展開される不思議な世界。こちらもどことなく乾いたおかしみが漂う。安部公房と勅使河原宏の天才的な共同作業であり、日本文学と日本映画の到達点と言って良い映画である。
『彼岸花』は小津安二郎の作だが、リマスターされて画像が非常に美しくなった。シナリオや演出のおかしみに加え、画面作りで表現されているユーモアまで感じられる。あらためて小津作品の深さを感じることができる。
『ゆきゆきて、神軍』も『愛の新世界』も、内容の衝撃性から公開当時かなり話題になった映画だが、見始めるとやめられなくなるような面白さがある。内容はかなりシリアスなんだが、この映画にも乾いたおかしみが漂っている。今回そういう映画ばかりで、乾いたおかしみこそが日本映画の特徴なのかなどと考えてしまう。
見たことのある映画ばかり見るのもまあ結構ではあるが、来年はもう少し未見の新しめの映画も見ておきたいと考えてしまうようなラインナップであった、あらためて見ると。
今年見たドラマ・ベスト3(19本)
1.
『洞窟おじさん』2.
『一番電車が走った』3.
『ちゃんぽん食べたか』 今年はドラマ自体あまり見ていないし、それにあまり面白い新作ドラマも実際のところないんで仕方がないんだが、とは言え今年は新作3本、しかもすべてNHKというラインナップである。
『洞窟おじさん』は内容が奇想天外だったのと、リリー・フランキーのホームレスぶりがあまりに板に付いていたのが記憶に新しいところ。尾野真千子や生瀬勝久との掛け合いも楽しい。元々2時間で放送されたものだが、その後1時間×4回(計4時間)に分割された。個人的には2時間ものの方がよくまとまっていて良かったと思う。
『一番電車が走った』は広島に原爆が落とされた日とその前後が描かれる実話をベースにしたドラマだが、主演の黒島結菜の好演が光る。また実体験者でなければ表せない表現が随所にあり、広島ならではのリアリティが目を引いた。
『ちゃんぽん食べたか』は、さだまさしの自伝的小説をベースにしたドラマで、以前NHKで放送されたドラマ『精霊流し』のモチーフも出てくる(どちらも自伝的な話なんで重なるのは当然)。リアルな青春ストーリーが心地良い。
3本とも、実話ベースのドラマで、しかもNHKがていねいに仕上げたという作品であるが、小粒な印象は否めない。民放のゴールデン枠のドラマは相変わらず迷走していて、内容も悲惨である。物語を作る能力に欠けている人々が作っているのかと感じるものも多い。そういう人たちが作るフィクションが見るに堪えないのは当然と言えば当然ではある。民放もとりあえず実話原作ものに取り組んだらどうだろう。
今年読んだ本ベスト5(39冊)
1.
『日本人のための日本語文法入門』2.
『ネイティブスピーカーの英文法』3.
『イスラーム国の衝撃』 本もショボいラインナップである。『日本人のための日本語文法入門』が日本語文法、『ネイティブスピーカーの英文法』が英文法を新しい視点で捉えた本である。どちらも目からウロコではあるが、万人にお奨めという類の本ではないかも知れない。
『イスラーム国の衝撃』は、当時「イスラム国」に対してセンセーショナルで感情的な報道が多かったにもかかわらず、冷静にその特徴を捉えて分析していた点を評価したい。
今年見たドキュメンタリー・ベスト5(104本)
1.
『映像の世紀 第1集〜第8集』2.
『あなたの中のミクロの世界 (1), (2)』3.
『京都人の密かな愉しみ 夏』4.
『過激派組織ISの闇』5.
『戦後70年 ニッポンの肖像 政治の模索 (1)』 ドキュメンタリーについては、例年になくかなり見ていて、5本選ぶのに苦労した。どれも秀逸な作品である。
『映像の世紀』については今さら言うまでもないんだろうが、あらためて見ると非常に質が高い。特に第4集と第8集は出色で、続編シリーズの『新・映像の世紀』と比べて見ると、逆にその良さがよくわかる。テーマ(つまり「映像による世界史」)を1つに絞って見せていくという手法が、単純そうでありながら意外に工夫されている。
『あなたの中のミクロの世界』も内容充実のドキュメンタリーである。人体をさまざまな微生物が住んでいる小宇宙であるとする定義も斬新で、その視点から、微生物たちと人体との関わりをさまざまに論じていく。寄生虫や細菌類が人体にいかに寄与しているかについてこれでもかと事例を出してくるんで、見る方がついていけないほどである。非常に示唆に富む新しい視点が良かった。
『京都人の密かな愉しみ』はシリーズ化しそうな勢いだが、作り手が楽しみながら作っているようなそんなドキュメンタリーである。ドキュメンタリーといっても多くの部分がミニドラマで占められている上、バラエティ番組みたいな要素も入っている。紹介されるのはコアな京都で、普通に京都に住んでいても経験できないようなことが多い。あくまでも「フィクション、伝説としての京都」という見方をすると良いんではないかと思う。京都を扱った番組で、同じような構成のものが他にもあるので(たとえば
『丸竹夷にない小路』)、同じスタッフが同じような企画、構成で何本か作っている(そして今後も作る)可能性がある。したがってこれからも似たような京都穴場番組が次々に出てくるんじゃないかという予感がする。
『過激派組織ISの闇』は、世間でいろいろ取りざたされながらも内実が見えてこない「イスラム国」の実像を、映像を駆使しながら探っていくというもので、濃密でありながらわかりやすい優れた報道ドキュメンタリーであった。
『戦後70年 ニッポンの肖像 政治の模索』は、今の政治状況が戦争当時の政治状況をそのまま引きずっているという視点が新しい(もしかしたら、僕が知らなかっただけかも知れないが)。今の日本の政治を歴史の中でマクロ的に捉えた点を評価したいと思う。
というところで、今年も終了です。今年も1年、お世話になりました。また来年もときどき立ち寄ってやってください。
ではよいお年をお迎えください。
参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』竹林軒出張所『2010年ベスト』竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』竹林軒出張所『2012年ベスト』竹林軒出張所『2013年ベスト』竹林軒出張所『2014年ベスト』竹林軒出張所『2016年ベスト』竹林軒出張所『2017年ベスト』竹林軒出張所『2018年ベスト』竹林軒出張所『2019年ベスト』竹林軒出張所『2020年ベスト』竹林軒出張所『2021年ベスト』竹林軒出張所『2022年ベスト』竹林軒出張所『2023年ベスト』