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竹林軒出張所

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『瘋癲老人日記』(映画)

瘋癲老人日記(1962年・大映)
監督:木村恵吾
原作:谷崎潤一郎
脚本:木村恵吾
出演:山村聡、若尾文子、東山千栄子、川崎敬三、村田知栄子、丹阿弥谷津子

谷崎は桁外れの大人物なのか

『瘋癲老人日記』(映画)_b0189364_8182325.jpg ある老人が、息子の嫁に迫りながら邪険に扱われることに喜びを感じるという、マゾヒズム的(プラス・フェティシズム的)嗜好のストーリー。原作はもちろん谷崎潤一郎で、非常にそれらしい話である。主人公の老人が谷崎自身をモデルにしていることは容易に想像がつく。
 原作は読んでいないが、老人の変態的な性を描くという点で『鍵』と共通する。物語として端で見ている分には、少し引きながらも楽しめるが、しかし一方で谷崎自身こういう恥ずかしい性癖を小説とは言えよく公にしたなと思う。同時にこういう作品を芸術として許容した当時の日本の文壇にも感心する。また、いかに文豪が書いたヒット作だからと言って、こう立て続けに変態(的な)小説を映画化した大映にも敬意を表したいと思う。
 主演の老人は知的な風貌の山村聡が演じ、これはかなり意外なキャスティングである。同じく息子の嫁に惹かれる『山の音』で主演したのが影響したのか。相手役のコケティッシュな嫁は、谷崎女優の若尾文子で、これは『刺青』『卍』でも似たような役どころを演じているためまったく違和感はない。むしろ若尾文子については、『痴人の愛』のナオミ役をやっていない方が意外な感じがするほどである。
 監督の木村恵吾という人についてはまったく知らなかったが、演出は非常に正攻法で、安定した絵が多く、小津安二郎を思わせるような映像も多い。ローアングルを多用しているのもその一つで、小津風の谷崎と言えなくもない。もっとも小津作品と谷崎作品といえば対極のイメージではある。
 例によってまったく共感できないストーリーだが、映画として破綻がないため、できは非常に良く、よくまとまっている。谷崎映画の中でも上質の部類に入る。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『鍵(映画)』
竹林軒出張所『山の音(映画)』
竹林軒出張所『細雪(映画)』
竹林軒出張所『刺青(映画)』
竹林軒出張所『卍(映画)』
竹林軒出張所『痴人の愛(映画)』
竹林軒出張所『春琴抄(映画)』
竹林軒出張所『つれなかりせばなかなかに(本)』
竹林軒出張所『蓼喰う虫(本)』
竹林軒出張所『谷崎万華鏡(本)』

by chikurinken | 2015-12-15 08:21 | 映画
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