報道の自由と巨大メディア企業
〜アメリカで何が起きているか〜
(2012年・英Docfactory)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
「悪の帝国」の根源はここにあった
アメリカという国は、建国時からメディアに対して区別なく補助金を出すというほど「報道の自由」が尊重されてきたところである(らしい)。そしてその伝統は200年以上続いてきた。
ところがその伝統が1980年代のレーガン政権を境に少しずつ突き崩されてきた。要は大手企業によるメディアの寡占が許されるようになったのである。それを境にメディア界は再編を始め、今では5つのメディア・グループが報道や放送を支配するようになった。結果的にどうなったかというと、政治や経済の問題に対してものを言わなくなり、ただ単に営利の追求を第一とするマスメディアができあがった。
このようなメディアは当然のことながら報道の本来あるべき義務も果たさず、利益のためなら権力とも平気でつるむため、目下のアメリカは、市民が知るべきことが市民に知らされていないという状況になっている。このような状況の悲惨さがあからさまになったのはイラク戦争のときで、アメリカの世論が戦争を強烈に後押ししたのは記憶に新しい。
このドキュメンタリーによると、9・11のテロとまったく関係なかったイラクに戦争をふっかけたのも、ひとえに政府に対する監視機能がマスコミに欠如していたためであるという。政府が元イラク人のまったくでたらめな証言を採用しそれに基づいてイラクを悪者に仕立てたにもかかわらず、大手の報道機関がそれを批判するどころか賛同するという体たらくで、まったく報道機関としての責務を果たせなかった。こういう社会が将来どういう姿になるかはある程度想像がつく。

実際今のアメリカの有様は弱肉強食の原始社会のようで、かつて世界の人々のあこがれだった理想主義はすっかり影を潜めている。そしてその原因が報道機関の役割放棄にあったということを窺い知ることができるドキュメンタリーがこれであるが、残念ながら英国で作られた作品なのだ、これが。こういう番組がアメリカの大手機関で作られていればまだ救いもあるんだろうが、救いはどこにも見当たらない。アメリカを追われたウィキリークスのジュリアン・アサンジがインタビューで登場するのも象徴的である。
今の日本の報道機関も、その多くが何となくアメリカ社会の後追いをしているような印象を受けるが、これは自殺行為に他ならない。最終的に「国破れて山河あり」などということになりかねない、そういう分岐点にいるのではないかとあらためて考えた。
★★★☆参考:
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