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竹林軒出張所

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『薬は誰のものか』(ドキュメンタリー)

薬は誰のものか 〜エイズ治療薬 特許料との闘い〜
(2013年・印Sparkwater India)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

人の命で金儲けする人たち

『薬は誰のものか』(ドキュメンタリー)_b0189364_8305263.jpg 大手製薬会社が、命に関わる病気の薬を不当に高く売っていることを告発するドキュメンタリー。
 HIVはかつては不治の病だったが、現在では進行を劇的に抑える薬がある。ところがこの薬、年間1万5千ドルもかかるという高価な薬で、そのため、アフリカの途上国で現在苦しんでいる多くのHIV患者のもとには届かない。製薬会社は開発費を理由に高価な価格を設定しているが、実際には開発費は総費用の10%程度に過ぎず、ほとんどは広告宣伝費やロビー活動費、管理職の法外な報酬、株主への配当などで消えていく。しかも開発自体、その多くが、税金で運営されている公共の機関で行われたもので、製薬会社は多くの場合それを買い取って特許を取るだけに過ぎないという。
 製薬自体の製造は1錠数セント程度で作れるため、製薬会社が抱え込む特許権さえクリアされれば、貧しい人でも入手できる薬を生産することができる。こういう発想の下、インドでガンジーの思想を受け継いだ製薬会社が、製薬の特許権を不当なものとして無視し、同じ成分の薬を製造して安価に提供するということを行っている(いわゆるジェネリック医薬品)。たとえばシプラ社がその代表で、大手製薬会社は、インドの不衛生な環境で成分がよくわからない薬剤が作られているなどと批判しネガティブキャンペーンを展開しているが、実際は先進諸国の製薬環境とまったく変わらない衛生的な環境で作られている(このドキュメンタリーで紹介されていた)。
 ジェネリック医薬品の唯一の障害は、大手製薬会社が主張する特許権であり、これが途上国を含む多くの国に押し付けられているのが現状で、シプラ社が安価なジェネリック薬品をHIVで苦しむ国々に提供しようとしても、税関で足止めを食うのが現状である。
 ところが、大手製薬会社の本丸のアメリカでも、医薬品の特許権に対して反対の動きが(政府内から)起こってきた。その結果、アフリカ諸国に対して薬剤費を補助しようという政策が実施されることになった。ただしここでも大手製薬会社がロビー活動を通じて介入してくるわけで、結果的にこの補助薬剤費は、安価なジェネリック薬品ではなく高価な大手製薬会社の薬剤の購入に充てられることになった。
 現在、アメリカでのこういう動きをきっかけに、ジェネリックのHIV治療薬がアフリカ諸国に送られるようになったが、それに対して大手製薬会社はWTOに提訴するなどの動きで対応している。人の生命を金儲けの対象にすべきか、資本と市民の間で対立が続いているのが現状である。
★★★☆

追記:
 日本も一応は特許権が幅を利かせているが、インド製のジェネリック医薬品を直輸入で購入することができる。輸入代理店がいくつかあり、信用のある代理店を選べば(詐欺の心配なしで)安心して入手することができる。僕も現在シプラ社の薬を購入しているが、特許医薬品では1錠150〜300円のものが、ジェネリック薬だと、送料を含めても1/20〜1/30程度の価格で入手できる。ただし薬の中には、(安全基準が各国で異なることから)日本の安全基準を満たしていないものもあるため、そのあたりは自分で十分調べた上で購入しなければならない。

参考:
竹林軒出張所『バイヤーズクラブ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『遺伝子組み換え戦争(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『顧客情報を盗んだ男(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2015-12-09 08:31 | ドキュメンタリー
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