遺伝子組み換え戦争 “戦略作物”を巡る闘い 欧vs.米
(2014年・仏Premières Lignes Télévision)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
モンサントの悪行
遺伝子組み換え作物は日本でも厳しく規制されており、僕自身も規制については賛成だが、特にヨーロッパでは遺伝子組み換え作物に対する疑念が大きい。実際、多くのヨーロッパ諸国では遺伝子組み換え作物は輸入が禁止されている。特に農業国であるフランスは、遺伝子組み換えに対するアレルギーは大きいようで、このフランス製ドキュメンタリーにもそういった見方が反映されている。
このドキュメンタリーで最初に紹介されるのはベルギーの酪農家で、かつて遺伝子組み換えの大豆を飼料として使っていたが、牛が下痢をしたり異常な死に方をしたり、あるいは奇形の子牛が生まれたりということが絶えなかったと語る。ところが飼料を替えた途端、牛の体調異変が減ったと訴える。で、この飼料だが、アルゼンチンから輸入されたもので、この輸入元では遺伝子組み換え作物を大々的に作っており、同時にさまざまな除草剤が使われているという。
この遺伝子組み換え作物は、モンサントのラウンドアップに代表される除草剤への耐性を持つもので、除草剤を積極的に畑に投入することで雑草の処理を簡単にするという目的で作られたものである。そのため除草剤がこれでもかというぐらい使われるんだが、徐々にその除草剤に耐性を持つ雑草が増えてきたため、農家は別の種類の除草剤も大量にブレンドして使っているというのだ。こういった除草剤は、ブレンドした場合の影響については一切検証されておらず、しかも催奇性があるものもあり、それが農家周辺の一般家庭に悪影響を及ぼしている。このためアルゼンチンでは、原因不明の異常に苦しむ子どもたちが増えているという。つまり、このアルゼンチンでの人の異常とベルギーでの家畜の異常は、過剰な除草剤の影響ではないかというのがこのドキュメンタリーの主張である。

このように周辺環境に悪影響を及ぼしていることから、アルゼンチンでは遺伝子組み換え作物と除草剤の使用に対する反対運動も起こっている。一方で、財力と政治力を持つ多国籍企業は、世界中の政府や行政機関に働きかけ、遺伝子組み換え作物を導入させて世界の農業を支配しようとロビー活動を続けている。このままではいずれ世界がこういった無法多国籍企業によって支配されかねないという警鐘を鳴らすのがこのドキュメンタリーである。
モンサントの悪行や遺伝子組み換え作物の危険性についてはあちらこちらで訴えられ(たとえばドキュメンタリー
『モンサントの世界戦略』など)、ある程度知っているつもりであったが、こうしてアルゼンチンの惨状を目にし酪農家の証言を聞くと、あらためて除草剤の恐ろしさに気が付く。ただこのドキュメンタリー、遺伝子組み換え作物というより除草剤の悪影響について訴えており、遺伝子組み換えの問題点については少々希薄なような気もする(もちろん遺伝子組み換え作物と除草剤が一蓮托生であることは重々承知しているが)。遺伝子組み換え自体の問題についてもあわせて突っ込んでほしかったという気がする。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『モンサントの世界戦略(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『フード・インク(映画)』竹林軒出張所『いのちの食べかた(映画)』竹林軒出張所『ありあまるごちそう(映画)』竹林軒出張所『タネの未来(本)』竹林軒出張所『農よ、自然に帰れ(ドキュメンタリー)』