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竹林軒出張所

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『顧客情報を盗んだ男』(ドキュメンタリー)

顧客情報を盗んだ男 〜スイス銀行 情報流出の波紋〜
(2015年・独Gebruder Beetz Filmproduktion/西Polar Star Films)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

狡猾な利己主義者はさまざまな手段で金儲けする

『顧客情報を盗んだ男』(ドキュメンタリー)_b0189364_814346.jpg スイスの銀行が顧客の秘密情報を守るということは有名で、そのためにいかがわしい出所の金もスイスの銀行口座を通ることで、その出自がわからなくなる。おかげで、怪しい資金が大量にスイスに集まるということが起こっている。
 もちろんこれは、政治的に永世中立を守るというスイスの理念によって実現した政策ではあるが、現時点では、他国の企業や人間が脱税のために利用しているという実態がある。他の国の政府から情報開示を求められても銀行側が頑なに拒否してきたということも、このような状況を助長した。外国にとっては限りなく怪しいが手を出せない存在、それがスイスの大手銀行だった。
 ところが2008年、世界第4位の銀行、HSBCスイス支店で、個人データが流出した。システム管理を担当していたファルチアーニという男が、自分の利益のために大量のデータを持ち出したのだが、これがフランス政府、スペイン政府に渡って、スイスの口座が脱税に利用されていた実態が明らかになった。ただし各国には、不当に取得された証拠は証拠として採用できないという法があったため、実際に脱税された金額を回収するまでにはなかなか至っていない。とは言っても、これで脱税の温床としてのスイスの銀行口座の実態が明らかになったため、これをきっかけとして各国のスイスに対する圧力は強くなり、これまでのように完全秘密主義が貫けなくなるのではないかというのがこのドキュメンタリーの主旨。
 このファルチアーニという男だが、国際手配されていたため、フランスからスペインに入国した際に逮捕されたが、司法取引で結局釈放され、その後EU議員選挙に立候補したりした(結局落選)。元々、盗み出した顧客情報を利用して、事業をするつもりだったらしく(実際に始めたがうまくいかず)、少なくともスイスの銀行の秘密主義を暴いてやるというような純粋な動機ではなかったようである。そのため見ていてなんだか腑に落ちない部分もままあるが、狡猾な利己主義者が儲かる巧妙なシステムというものが、こういうところ(スイスの銀行)にもあるという現実はよくわかる。タックスヘイブンの問題同様、まだまだ問題は山積みのようだ。
★★★

参考:
竹林軒出張所『パナマ文書 “史上最大のリーク” 追跡の記録(ドキュメンタリー)』
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by chikurinken | 2015-12-07 08:14 | ドキュメンタリー
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