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竹林軒出張所

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『大菩薩峠』(映画)

大菩薩峠(1960年・大映)
監督:三隅研次
原作:中里介山
脚本:衣笠貞之助
出演:市川雷蔵、本郷功次郎、中村玉緒、山本富士子、島田正吾

これは歌舞伎である

『大菩薩峠』(映画)_b0189364_815311.jpg 中里介山の『大菩薩峠』を映画化したもの。『大菩薩峠』はこれまで何度も映画化されており、元々が大河小説であることからシリーズ化されているものも多く、本数で数えると結構な数が出ているようだ。この市川雷蔵主演の大映シリーズだけでも3本ある。
 原作は、机竜之助というアンチヒーローが登場する新聞連載小説で(30年以上続いたらしい)、この映画では机竜之介を市川雷蔵が演じる。この映画では、冒頭から辻斬りをするような現れ方をして、途中いろいろと思い悩んだりするんだが、どういう人間なんだか正直よくわからない。少なくともこの映画の描き方ではまったく共感できない。なぜ辻斬りをするのかもよくわからない。
 また、机竜之助が暴行した人妻が机に惚れてその後妻になるという設定も無理がある。こういう展開は先日見た『弁天小僧』でもあったし、80年代のドラマ『想い出づくり。』でもあったんで、当時の鉄板ネタだったのかも知れないが、リアリティに欠ける。もっともリアリティに欠けると言えばすべてがリアリティに欠けるのがこの話で、江戸と京都を股にかける話でありながら、登場人物があちこちで偶然出会うという都合の良い安直な展開になっている。しかも(当時人気があっただろうと思われる)新撰組の近藤勇や土方歳三なんかも話に絡んできたりする。思い付くままに書き散らしたという印象さえ受ける。それから死んだ妻によく似た女が登場(この映画では中村玉緒の二役)し、主人公に絡んでくるというのもありきたりで、通俗的にも程があると感じる。
 長編映画や長編ドラマの場合サブプロットが無ければ底の浅い安いドラマになるということは熟知しているが、この映画についてはあまりに伏線が多く、もうゴチャゴチャでわけがわからない。おそらく原作の超長編小説では、こういう多彩なサブプロットはそれほど問題にならないのだろうが、2時間弱の映画ではちと多すぎる。もう少し整理しなければ見る方としてはつらい。もっともこれだけ人気がある原作であることを考えると、見る方もすでに内容を知っているという前提で作られているのかも知れない。内容を熟知している観客としては、誰がどのように机竜之介やお浜を演じるかを堪能したいという動機、言ってみれば歌舞伎の顔見せみたいな感覚で見ていた可能性もある。そのせいか、主演の市川雷蔵も、相手役の中村玉緒も歌舞伎系の役者である。雷蔵は存在感があって華があるのは相変わらずだが、メークがやや歌舞伎風でいただけない。一方の中村玉緒も終始絶叫芝居でこちらもいただけない。山本富士子の演技もやけに湿っぽいし、演出の見所はあまりない。
 最後は決闘、というか仇討ちのシーンになるが、結局結末が出ないまま終わってしまった。続き(『大菩薩峠 竜神の巻』)を見ろってことらしい。僕はもう飽きたから続きは見ない。『大菩薩峠』についてはアウトラインがわかったんで、他の『大菩薩峠』映画も見ないと思う。もちろん原作小説も読む気はない。
★★☆

参考:
竹林軒出張所『弁天小僧(映画)』
竹林軒出張所『想い出づくり。(ドラマ)』
竹林軒出張所『忍びの者(映画)』
竹林軒出張所『好色一代男(映画)』
竹林軒出張所『新・平家物語(映画)』
竹林軒出張所『炎上(映画)』
竹林軒出張所『ぼんち(映画)』

by chikurinken | 2015-11-23 08:15 | 映画
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