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竹林軒出張所

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『マエストロ・オザワ 80歳コンサート』(ドキュメンタリー)

マエストロ・オザワ 80歳コンサート(2015年・NHK)
NHK-BSプレミアム

懐かしさが先に立つ

『マエストロ・オザワ 80歳コンサート』(ドキュメンタリー)_b0189364_7514948.jpg 指揮者の小澤征爾は、若い頃の僕にとってアイドルだった。
 1978年にボストン交響楽団を引き連れて中国凱旋公演をやったときも僕はしっかりテレビで見た記憶がある。著書の自伝『ボクの音楽武者修行』もその頃読んだし、武満徹との対談(『音楽』)も読んだ。この人は、当時世界的に活躍していたこともあるが、何より周りの人を引き付けるような明るさがあって、それがとても魅力的だった。映像を見ていても不快に感じるようなことがまったくなかったし、音楽に真剣に取り組んでいる様子も伝わってくる。
 サイトウ・キネン・オーケストラを結成した際も、このオーケストラでヨーロッパ公演をした模様をテレビで見ていた。ベルリンの聴衆をうならせたブラームスも印象深い。小澤自身がサイトウ・キネン・オーケストラを評して「いつも定食ばかり作っているオヤジが、豪華な食材を提供されて好きなものを作ってくださいと言われているようなものだ」と評した(これは『小澤征爾とその仲間たち―サイトウ・キネン・オーケストラ欧州を行く』に載っていたような記憶がある)のも、うまい表現だなと思った。もちろんウィーンのニューイヤーコンサートに登場したときも見たし、ウィーン・フィルの音楽監督に就任したときも素直に嬉しいと思った。ついに極めたかと思ったものだ。
 その小澤征爾も80歳になるという。そりゃこっちも年取るわけだ。で、その80歳の誕生日を記念して松本でコンサートが開かれることになったらしい。なぜだかわからないがサイトウ・キネン・オーケストラは松本を本拠にしているのだ。その模様と小澤のインタビュー、後は小澤征爾のこれまでの足跡を1時間にまとめたのがこのドキュメンタリーということになる。
『マエストロ・オザワ 80歳コンサート』(ドキュメンタリー)_b0189364_7512161.jpg このコンサートで小澤自身が指揮するのは、マルタ・アルゲリッチと共演した合唱幻想曲のみで、後は小澤の関係者(教え子や友人の音楽家たち)が演奏する。小澤自身は、ほとんどにおいて、演奏を聞く側として参加するという趣向である(演奏会の模様はその日の夜中に同じチャンネルで放送された)。
 個人的には、コンサートの模様はともかく、小澤征爾のこれまでを振り返った映像が興味深かった。上に書いた中国公演やサイトウ・キネン・オーケストラ関係の出来事、ウィーン・フィル音楽監督就任まで紹介されていた。僕としては、それぞれの時代が自分の若い頃とシンクロするため懐かしさも感じたというわけだ。カラヤンやバーンスタインとの関係についても触れられ、その映像も短めではあるが出ていた。ただしさすがにNHK交響楽団と揉めたいわゆる「N響事件」については一切触れられていなかった。NHKの放送だからしようがないのか。N響による若手指揮者(つまり小澤)に対するいじめみたいなものだったから、NHKとしては触れたくなかったんだろうが、でもNHKとしても一度は総括しておいた方が良いんじゃないかと思う。
 ま、そういう内容の1時間番組だったんだが、僕としては懐かしさを感じることが多くて、そちらの感慨の方が大きい。小澤氏も一時期より体力が回復したようで何よりである。今後の活躍を祈りたい。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『山本直純と小澤征爾(本)』
竹林軒出張所『ナオズミ・フォーエバー』
竹林軒出張所『アルゲリッチ 私こそ、音楽(映画)』
竹林軒出張所『イツァーク(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『さわり(本)』
竹林軒出張所『他人の顔(映画)』
by chikurinken | 2015-10-24 07:54 | ドキュメンタリー
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