神聖ローマ、運命の日 オスマン帝国の進撃
(2012年・伊ポーランド)
監督:レンツォ・マルチネリ
脚本:レンツォ・マルチネリ、ヴァレリオ・マンフレディ
出演:F・マーレイ・エイブラハム、エンリコ・ロー・ヴェルソ、イエジー・スコリモフスキ、ピョートル・アダムチク
ご都合主義の歴史
第二次ウィーン包囲を描いた映画ってことだが、内容はご都合主義でいい加減である。
第二次ウィーン包囲は、凋落が始まったオスマン・トルコがヨーロッパに軍を送り込み、ウィーンを包囲したが結局陥落させることができず、最終的にはヨーロッパの君主連合軍に破れ撤退したという事件。トルコ軍が約15万人、ウィーン軍が1万5千人、君主連合の救援軍が6万というもので、救援に駆けつけたポーランド軍のゲリラ戦が奏功したのと、トルコ軍の装備が古かったことや士気が低かったことなどが原因となって、トルコ軍が惨敗したんだという。
ただしかし、映画でこういう戦い、つまり数万の兵で数十万の兵を打ち負かしたということを表現するんなら、その理由をきちんと示さなければならない。この映画のように、マルコ神父の奇跡で救われ、キリスト教の神のご加護のおかげ、奇跡のおかげみたいなところに落ち着くとアホらしくなってくる。もっともこの映画のテーマ自体はキリスト教の威光というようなものなんで、それもまあ筋が通っていると言えば言える。本当はきちんとなぜこういう結果になったかを示すのが筋だと思うし、そのためにはオスマン・トルコ側の政治的背景、国内事情なんかもきっちり描くべきだと思うんだが、そのあたりはまったくおざなりである。ヨーロッパ側およびキリスト教側の都合の良い歴史観で終始しているんで、薄っぺらさを感じる。それにキリスト教こそが正義みたいな描かれ方をされると、随分身勝手な宗教ですことと思ってしまうのは僕だけか。

主演のマルコ神父を演じるのは、『アマデウス』でサリエリを演じたF・マーレイ・エイブラハムだが、あの映画ほどの強烈な印象はない。イタリア、ポーランドの合作だが、トルコ側も神聖ローマ側もなぜか全編英語。
戦闘シーンはそれなりだが、CGがチャチな上、アクション・シーンで時折使われるスローモーションも安っぽい印象しか残らない。またあらゆる場面の演出が陳腐なのも気になるところ。
こういうダメな映画は最初の10分位見るだけで概ねわかるんで、どうでも良い映画だったら早々に見切りを付けるに限るんだが、今回は歴史の勉強のつもりも少しあったんで最後まで見た。他人にはまったくお奨めしない。オスマン・トルコ側からの歴史を知りたければ、やはりそういう類の本を読むしかないかなと思った(以前
『オスマン帝国』
って本を読んで、ヨーロッパ側以外の視点でオスマン・トルコに触れ、目からウロコだったことがある。こちらはまずまずお奨め)。
★★☆
参考:
竹林軒出張所『キングダム・オブ・ヘブン(映画)』