カラマーゾフの兄弟
(1968年・ソ連)
監督:イワン・プイリエフ
原作:フョードル・ドストエフスキー
脚本:イワン・プイリエフ
出演:ミハイル・ウリヤーノフ、マルク・プルードキン、リオネラ・プイリエワ、キリール・ラウロフ、ワレンチン・ニクーリン
重厚で無骨なソ連映画 ドストエフスキーの名作の映画化。かなり忠実に再現されているという評判だが、結末が違うという話もある。
全編232分、DVDにして3枚というなかなか重厚な作品で、ソビエト作品らしい無骨さもあるが、原作の雰囲気はかなり再現できているんではないかと思う。いずれにしても原作を読んでいないので再現度については評価できない。
地主上がりの傲慢なろくでなし男、フョードル・カラマーゾフと、3人の息子との確執がこの壮大なストーリーの中心になるが、人間の強欲、傲慢、利己主義、侮蔑など、不快な要素がこれでもかというくらいに披露される。そういった人間の中の不快な部分が出てくる一方で、純真な登場人物(三男)も配置され、これが良い対比になっている。
途中からだんだんミステリーみたいな要素が出てくるのはドストエフスキーらしいと言えば言えるが、エンタテイメントとしても楽しめる。なんでもこのDVDに収録されている解説によると、ドストエフスキー作品というのは根本的にエンタテイメント作品であって高邁な文芸作品ではないというんだが、確かにそうかもなーと思わせるストーリーではある。ただこの映画について言えば、演技が全体的にやや大ぶりで、それは舞台俳優を多数起用していることで致し方ない面はあるのかも知れないが、そういう点も少しばかり無骨さを感じさせるのだ。しかし当時の風俗や衣装が再現されているため、おそらく原作を読むよりよりリアルな雰囲気が味わえる。こういう部分は映像ならではで、もちろん文章でなければ堪能できない部分(特にセリフの面白さなど)もあるだろうが、最初に名作に触れる方法としては良いんじゃないかと思う。兄弟たちが少々老けすぎの印象もあるが、大きな破綻はない。
なお、グルーシェンカ役で登場しているリオネラ・プイリエワは監督イワン・プイリエフの奥方だそうで、その監督のイワン・プイリエフは、この作品を完成させる直前に死去したそうだ。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『原作と映画の間』竹林軒出張所『罪と罰(映画)』竹林軒出張所『アンナ・カレーニナ(映画)』竹林軒出張所『居酒屋(映画)』竹林軒出張所『ゴリオ爺さん(映画)』竹林軒出張所『令嬢ジュリー(映画)』竹林軒出張所『赤と黒(映画)』竹林軒出張所『プライドと偏見(映画)』竹林軒出張所『ジェイン・エア(映画)』竹林軒出張所『チャイコフスキー(映画)』--------------------------
以下、以前のブログで紹介したソ連文芸大作映画『戦争と平和』に関する記事。
(2005年12月22日の記事より)
戦争と平和
第1部:アンドレイ・ボルコンスキー(1965〜67年・ソ)
監督:セルゲイ・ボンダルチュク
原作:L. N. トルストイ
音楽:ヴァチェスラフ・オフチンニコフ
出演:セルゲイ・ボンダルチュク、リュドミラ・サベリーエワ、ヴァチェスラフ・チーホノフ、イリーナ・スコブツェワ、アナスタシャ・ヴェルティンスカヤ

壮大なスケールで描かれる『戦争と平和』。ソビエト時代に、巨費を投じて作ったらしい。
ハリウッド版の『戦争と平和』がみすぼらしく安っぽかったのと好対照を示している。堅牢であまりけれんのない演出だが、カメラがあちこちを大きく移動するのはなかなか爽快。金がかかってるなと思わせる贅沢さである。衣装や大道具も贅沢で、戦場シーンもものすごい(相当なエキストラを動員したのだろう)。
話の進展は、大河のようにゆったりしており(文字通り大河ドラマ!)、途中眠くなる。のんびりしているときに落ち着いてゆっくり見たい映画だ。
★★★☆--------------------------
(2005年12月26日の記事より)
戦争と平和
第2部:ナターシャ・ロスコワ(1965〜67年・ソ)
監督:セルゲイ・ボンダルチュク
原作:L. N. トルストイ
音楽:ヴァチェスラフ・オフチンニコフ
出演:セルゲイ・ボンダルチュク、リュドミラ・サベリーエワ、ヴァチェスラフ・チーホノフ、イリーナ・スコブツェワ、アナスタシャ・ヴェルティンスカヤ
第1部のような派手さはないが、舞踏会シーンは華麗で素晴らしい。ヴィスコンティの『山猫』を彷彿とさせる絢爛さだ。第2部になって、やっと話が動き出してきたという感じである。
人物関係が複雑でもう一つ飲み込めない箇所が結構あるが(見覚えのない人物が主要人物のようにしれっと現れるのだ)、それはそれ、流して見ることにする。
ともかく、全編ぜいたくに作られており、映画はかくありたいと思わせるものがある。無骨ではあるが、映画的なあまりに映画的な映画である。
★★★--------------------------
(2006年3月24日の記事より)
戦争と平和
第3部:1812年(1965〜67年・ソ)
監督:セルゲイ・ボンダルチュク
原作:L. N. トルストイ
音楽:ヴァチェスラフ・オフチンニコフ
出演:セルゲイ・ボンダルチュク、リュドミラ・サベリーエワ、ヴァチェスラフ・チーホノフ、イリーナ・スコブツェワ、アナスタシャ・ヴェルティンスカヤ
いよいよナポレオン戦争も佳境に入ってきた。フランス軍がモスクワ近郊まで迫ってボロディノの戦いが始まる。登場人物たちも否応なしに戦争に巻き込まれていく。
豪華絢爛で贅沢な映画なんだが、眠いったらありゃしない。2回見ようとして、2回とも途中で眠りそうになった。3回目にしてやっと最後までたどり着いたという有様(劇場で見たらまた違うんだろうが)。
途中からボロディノの戦闘が始まると眠くなることはないんだが、それまでの話にあまり緊張感がないんで退屈する。実際戦争が始まるときというのはそういうものなのかも知れないが。
★★★--------------------------
(2006年3月24日の記事より)
戦争と平和
第4部:ピエール・ベズーホフ(1965〜67年・ソ)
監督:セルゲイ・ボンダルチュク
原作:L. N. トルストイ
音楽:ヴァチェスラフ・オフチンニコフ
出演:セルゲイ・ボンダルチュク、リュドミラ・サベリーエワ、ヴァチェスラフ・チーホノフ、イリーナ・スコブツェワ、アナスタシャ・ヴェルティンスカヤ
長い長〜い大河映画もこれで完結。
第4部は、ボロディノの戦いからモスクワ入城、ナポレオン軍の暴虐、ナポレオン軍の撤退と歴史が動き、登場人物たちの人生もそれに合わせて揺れ動く。第4部は、まったく眠くなることもなく、相当な緊迫感がある。なるほど、第1部から第3部はすべてこのための導入部だったのだと納得させられる出来映えである。演出はやや粗く、拙いオーバーラップなどの効果もあるが、それでも、戦争や暴虐が身近にひたひたと迫る様子の表現は秀逸である。
ナポレオン戦争といえば、歴史の一出来事というマクロ的な感覚しかないが、こういう形で戦争の悲惨さを突きつけられると、歴史上の事件であるナポレオン戦争に対する認識も変わるというものだ。ゴヤがナポレオン戦争を告発するために描いた『1808年5月3日』が、非常に身近な感覚で思い出された(同じようなシーンがあったし、犠牲者がイエスのように描かれるシーンもあった)。
戦闘シーンは第1部から第4部まで力が入っており、ロマン派の絵画のような豪華さ(?)である。ものすごく金がかかっているのがよくわかる。「ソ連の威信をかけた」映画だったんだなとあらためて納得する。
全体的に、登場人物たちにあまり入れ込まない演出で、人間の営みを俯瞰するような映像、ナレーションであり、戦争(人間)の愚かさを訴えるメッセージは十分に伝わってきた。無骨ではあるが、贅沢で高級な良い映画である。
★★★☆