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竹林軒出張所

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『戦争とプロパガンダ』(ドキュメンタリー)

憎しみはこうして激化した 〜戦争とプロパガンダ〜(2015年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル

海兵隊が星条旗を掲げるあの映像は
実はヤラセだった


『戦争とプロパガンダ』(ドキュメンタリー)_b0189364_8275739.jpg 太平洋戦争中に日米が自国民の賛同を集めるため、どのようにして映像を利用したかを描くドキュメンタリー。
 日本の場合は、連戦連勝を印象付け、敗北した場合は「転戦」などと言い換えたりしていたのが有名で、いわゆる「大本営発表」と言われる粉飾映像が流されていたのは、我々も知るところである。同時に国民から拠出という名目で財産を没収したり、恐怖政治を敷いたり、強制労働を強いたりとか、全体主義の本領を発揮し、さんざん好き勝手していたのが日本政府であることを考えると、プロパガンダ映像ごときはせいぜいほんの一部の要素でしかない。
 一方のアメリカは、一応建前上は自由の国で、日本ほど政府が好き勝手なことはできない。それでも戦費は何とか調達しなければならない。そこで利用されたのが映像で、こちらも戦場のリアルな姿をそのまま伝えたんでは厭戦気分だけが盛り上がって仕方がないんで(ベトナム戦争の頃がその好例)、ある程度美化した(やはり勇ましい)映像を劇場で流すことにしたらしい。当初は太平洋でもヨーロッパでも戦争は多くの国民にとって他人事だったらしいが、映像の威力はすばらしく、特に硫黄島の映像は多くの市民の共感を呼び、国民に大量の国債を買わせることに成功、戦費の調達に成功したという。
 硫黄島の擂鉢山に海兵隊が星条旗を掲げようとするあの有名な映像(右上の写真参照)も、国債販売に大きな役割を果たしたのだが、あの映像、実は後で撮り直した美化映像、要するにヤラセである。確かによくよく考えると、あれだけ見事なアングルのきれいな映像が最前線で撮れるわけはない。しかしその美化映像こそがプロパガンダにうってつけで、乳児を抱いた日本人女性が崖から飛び降り自殺を敢行する映像や、米兵の死体があちこちに転がっている映像、米兵が日本人の死体を陵辱している映像なんかは、公開されるわけがないのである(実際には撮影されたがボツになっていた。こういった映像素材もこの番組で紹介されていた)。
 アメリカ国民がこういった映像で熱狂したあげく、戦費調達はうまくいき、戦闘も継続できたということなんだが、そもそも当時の日本の場合、国民が財産を供出しようにもすでに出すものがないわけで、ヨーロッパと太平洋で大きな戦争を遂行していたアメリカにまだそれだけの余裕があったこと自体がそもそも驚きである。プロパガンダ云々よりもむしろ当時のアメリカの国力に僕は驚いた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『栄光の旗(ドラマ)』
竹林軒出張所『ヒトラー 権力掌握への道(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『日本テレビとCIA(本)』
竹林軒出張所『過激派組織ISの闇(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『プロパガンダ ウソを売る技術(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2015-08-17 08:23 | ドキュメンタリー
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