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竹林軒出張所

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『子どもはみんな問題児。』(本)

子どもはみんな問題児。
中川李枝子著
新潮社

子どもへの愛情があふれた本

『子どもはみんな問題児。』(本)_b0189364_847455.jpg 『いやいやえん』『ぐりとぐら』の作者、中川李枝子が、自分の保母時代の経験を基にして子どもについて書いたエッセイ。
 『いやいやえん』と『ぐりとぐら』は、僕が保育園児だった頃から好きだった本だが、この本に掲載されている「中川李枝子全作品リスト」によると、当時まだ出版されたばかりだったということがわかる。つまり中川李枝子が保母をやっていた頃というのは、僕が保育園児をやっていた頃と重なるということになる(もちろん保育園は異なるが)。ちなみに『いやいやえん』は保育園での(先生としての)経験を基にして書いたもので、『ぐりとぐら』は『ちびくろ・さんぼ』(当時園児に人気があったという。よくわかる)に対抗心を燃やして書いたものらしい。
 基本的には保母目線のエッセイで、作家としての顔より保母としての顔が前面に出てくるが、保育士がこういうふうに考えているんだということがよくわかり、なかなか新鮮である。特にこの中川先生、子どもが好きで好きでしようがないようで、こういう保育士がいると親もうれしいし安心だと思う。ましかし自分が園児だった頃を思い出すと、当時の先生たち結構怖かったなと思う。もちろん怖いながらも先生のことが好きだったりしたんで、それはそれで良かったんだろう。中川先生も「ケガや命にかかわる危険は叩いてでも教える」という方針だったそうだ。ごもっとも。それからイタズラをしたために倉庫みたいな暗いところに入れられた記憶もある。今なら虐待騒ぎになりかねないが、中川先生の保育園(みどり保育園)でもそういうことをやっていたらしいんで当時は普通だったんだろう。なんだかいろいろな記憶が甦ってくる。
 著者によると、子どもたちはお母さんが大好きで、お互いにお母さん自慢をして喜び合うという。この本で描かれている、著者の目を通して見た子どもたちはとても可愛く魅力的で、また保育園に行ってみたい気になる。僕自身の子どもはもう保育園に行くような年ではないんで、少なくとも当面は行くような機会はあるまいが、子どもを送り迎えしていた頃(つまり保育園に出入りしていた頃)に、こういう優しい(保母の)視線に触れられていたら良かったなあと思う(そういう先生ももちろんいたが)。こちらまで優しい気持ちになれる本である。
 随所に著者のイラスト(絵本から引用したもの)が挿入されているのも楽しい。中川李枝子は、絵まで優しくて心地良い。それが中川作品の魅力なんだろうなということにもあらためて気付かされた。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『夜間もやってる保育園(映画)』

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 以下、以前のブログで紹介した『ちびくろサンボ』関連書籍に関する記事(一部改訂)。

(2006年1月29日の記事より)
『子どもはみんな問題児。』(本)_b0189364_848876.jpgちびくろサンボよ すこやかによみがえれ
灘本昌久著
径書房

 1988年に突然絶版になった人気絵本『ちびくろサンボ』。版元の岩波書店からは、そのあたりのいきさつがまったく発表されなかったため、『ちびくろサンボ』に愛着を持っていた人々はいぶかしく感じていた。本書はそのあたりのいきさつと、『ちびくろサンボ』出版の経緯、海外での『ちびくろサンボ』事情など、『ちびくろサンボ』について多面的にアプローチしている。
 この『ちびくろサンボ』絶版事件の発端は、米国(元々はカナダ)でこの本が(黒人に対する)差別本ではないかと一部の反差別団体から告発があり、それを受けた(迎合した?)日本国内の一部の反差別団体から岩波書店に大して圧力があったということらしい。一方岩波書店側もこれについて深く議論するのではなく、なんと2日後に絶版を決めたという。
 私自身、子供の頃この本が好きで、絶版の話を聞いたとき素直に「なんで?」と思ったほどだ。少なくとも私はこの本で差別意識が助長されたことはない。ただ、一部の黒人がこの本について不快感を持っているという話を聞いたので、それだったら問題があるわなとは思っていた。だがこの本によると、その辺の事情もちょっと違っており、この本を差別的と捉えるかどうかは黒人の中でも意見が分かれるという(もちろんその他の人の間でも)。
 この本では、『ちびくろサンボ』が差別的ではないという主張を繰り返しているが、だからといって著者が身勝手な保守人間というわけではない。著者は、反差別問題にたずさわってきた人で、同和問題についても造詣が深い。そういうバックグラウンドがあるので、読む方もその意見を真摯に検討することができる。しかも、いい加減なとらえ方をしておらず、徹底的に問題性を洗い直し、その上で『ちびくろサンボ』はシロであるという結論を導き出している。
 同和問題とも絡めて差別問題を論じており、主張も明快である。『ちびくろサンボ』絶版が決まる前に、少なくとも本書程度の議論を告発側と被告発側(岩波書店)との間でやって欲しかったと思う。だが一方で、こういう本が出てきて差別について真剣に考えるきっかけを作ったことは、結果的にではあるが評価できることかもしれない。全体に非常に読みやすいが、最終章の「反差別の思想 {被差別の痛み論批判}」は、引用も多く読みづらかった。この本の主張を昇華させているような重要な箇所だっただけに、もう少しわかりやすくまとめられていれば良かったとも思う。
 ちなみに岩波書店から出て絶版状態にあった『ちびくろさんぼ』は、現在、瑞雲舎から復刻販売されている(注:2015年時点では、本書を発行した径書房からも復刻されている)。
★★★★
by chikurinken | 2015-08-05 08:49 |
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