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竹林軒出張所

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『ムハンマドたちの絶望』(ドキュメンタリー)

ムハンマドたちの絶望 〜“アラブの春”後のエジプトを生きる〜
(2015年・エジプトAl Batrik Art Production/NHK)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

『ムハンマドたちの絶望』(ドキュメンタリー)_b0189364_8412019.jpg混迷するエジプトの今

 「アラブの春」がアフリカ、中東を席巻するさなか、エジプトでは2011年に民主革命が起こり、当時の大統領ムバラクが退陣に追い込まれた。その後、民主的に大統領選挙が実施され、宗教組織であるムスリム同胞団の団長、ムハンマド・ムルシが大統領職に就く。ただムルシの政策は反動的で、民主政治を期待していた市民からは失望の声があがっていた。
 このドキュメンタリーのタイトルになっている「ムハンマド」は、イスラム教の開祖のムハンマドではなく、またこのエジプト大統領のムハンマド・ムルシでもない。エジプト北部、ポートサイドのサッカー場の暴動の際に逮捕された1人の市民の名前である。この暴動では74人が死亡したとされるが、このムハンマドもその首謀者の1人として逮捕され、ムルシ政権下で死刑判決が出された。
 ムハンマドは終始無実を訴えているが、一方でムルシ政権に内在する問題が冤罪の原因であるとも考えており、反ムルシの考え方を持っている。こうした中、反ムルシの運動は全国に拡大し、2013年にこれを承けて軍事クーデターが起こり、結果的にムルシは解任される(後に死刑判決が出される)。その後再び大統領選挙が実施され、軍事クーデターの当事者である軍人のシシが当選した。これに伴い、主人公のムハンマドの裁判もやり直しが行われることになった。
 このように、このドキュメンタリーは1市民の目から見たエジプトの今が捉えられた作品だが、内容的にはあまりパッとしない。そもそも主人公のムハンマドが本当に無実なのかどうかがはっきりしないため、それほど共感が湧かない。ただ一つよくわかったのはムルシが反動的で非常に不人気だったということ。新しいシシ政権にしても海のものか山のものかよくわからず、今後どうなるかわからない。まだまだ波乱含みの様相で、真の民主化がいつになるのかはなかなか見えてこない。エジプトのそういう状況はまあ理解できた。
★★★

参考:
竹林軒出張所『ネットが革命を起こした(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『“アラブの春”が乗っ取られる?(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2015-07-28 08:41 | ドキュメンタリー
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