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竹林軒出張所

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『“天国には行かせない” クルド人女性部隊』(ドキュメンタリー)

“天国には行かせない” 〜ISと戦うクルド人女性部隊〜
(2015年・イスラエルItai Anghel/Keshet International)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

噂に聞くクルド軍は勇敢だった

『“天国には行かせない” クルド人女性部隊』(ドキュメンタリー)_b0189364_850820.jpg イラクとシリアではいまだに内戦が続いており、IS(イスラミック・ステート)は依然として支配領域を確保している。そのISに果敢に戦いを挑み続けているのがクルド人である。
 クルド民族はトルコ、イラク、シリア国境付近に定住する民族で人口は約3000万人、独自の国家を持たない民族としては世界最大と言われる。イラク国内にはクルド人自治区もあったが、トルコやシリアでは虐げられてきた。そのため、イラクとシリアの内戦はクルド人にとってはある意味都合が良い。独立のチャンスとも言える。それを考えると、勢力を北部に広げつつあるISとぶつかるのも理の当然。実際クルド人は民兵組織も持っているのだ。
 このような事情を背景として、ISとクルドはイラク・シリアの北部地帯で戦闘を続けている。このドキュメンタリーは、イスラエルの製作局が作ったものだが、クルド軍の最前線に同行し、ISとの戦闘を取材するというもので、ISを逆側から照らし出すということになる。
 クルド軍には、女性兵士も少なくなく、ISは彼女らを見ると逃げ出すらしい。一つにはISの兵士が、女に殺されると天国に行けないと信じているためで(聖戦で普通に死ぬと「天国に行き72人の処女に囲まれて幸せに暮らせる」らしい)、番組に登場するクルド人女性士官はこれを笑い飛ばす。彼女によると、ISは寄せ集めで統制も取れておらず勇敢でもないらしい。世界中の多くの人々はISのプロパガンダ映像に騙されているに過ぎないと言う。
 クルド人は、ISにとっては奴隷にして良い被差別的存在らしく、クルド人にとってISと闘うことは自らの存亡がかかっている。クルド兵士が勇敢なのも、女性が多いのもそのためらしい。女たちは特にISに捕まったらもの扱いされ、売り飛ばされるのは必至である。このクルド人に対する感覚からわかるようにISの考え方は(特に女性に対して)非常に差別的である。ISが(『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』で語られているように)歴史的必然として登場したのではなく、歴史の空白に現れたただのあだ花に過ぎないことが見てとれる。
 このドキュメンタリーを見ると、いずれイラク・シリア北部にクルド人の国家(つまりクルディスタン)ができるんじゃないかという気がしてくる。そもそもこれまで独自の国家がなかったことが不思議なくらいで、むしろ「クルディスタン」ができる方が歴史的必然と言えるのではないかと、そんな気がしている。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『“イスラミック ステート”はなぜ台頭したのか(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『追跡「イスラム国」(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『過激派組織ISの闇(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『イエメンのアルカイダ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『イスラーム国の衝撃(本)』
竹林軒出張所『イスラム国 テロリストが国家をつくる時(本)』
by chikurinken | 2015-07-27 08:50 | ドキュメンタリー
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