強いられた沈黙 前編、後編
(2014年・米Morninglight Films/NakedEdge Films)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
アメリカは民主主義を放棄したのか
CIAやNSA(米国家安全保障局)などの不正について内部告発した結果、破滅に追い込まれた、あるいは追い込まれそうになった人々を追うドキュメンタリー。
2001年9月11日の同時多発テロ以降、アメリカは対テロリズムで暴走を始め、一部の国には攻撃を仕掛け、他の国についてはそれに加担するよう迫り、また国内では監視体制を強めて不都合な人間を片っ端から追い込んでいった。あげくにCIAは拷問を当然のように行い、市民の通信についても当然のように傍受するようになった。
そんな中、元CIA職員がCIAによる拷問の事実を告発したり、元NSA局員が国民監視プログラムについて公表したりという事件が起こった。かれらはもちろん、合衆国憲法の理念、つまり民主主義の理念に基づいてこういった行動を起こしたわけだが、当局はかれらに圧力をかけ全力でつぶしにかかった。彼らから仕事を奪い、家族や本人にも精神的な苦痛を与え続けるなど、あの手この手でかれらを破滅させるよう仕向けていく。終いには彼らを訴追することで多額の費用がかかるように仕向け、経済的にも破綻させるよう持っていく。権力を持っているものが個人をつぶすのは簡単で、どんな強靱な精神の持ち主でもあっけなく折れてしまう。だからこそ権力者が持つ力は、システムや法によって制限されなければならない。それが民主主義の理念である。

ああそれなのにそれなのに、2001年以降アメリカの政府当局は暴走し続けており、それは今でも収まっていないのだ。オバマ政権になっても状況は変わらず(というより悪化しており)、2013年のスノーデン事件でもそれは明らかになった。このドキュメンタリーで取り上げられる3人の告発者の悲劇はまったく他人事ではなく、何かきっかけがあればいつでも自分の身に降りかかってくるような事件である。それは日本でも同様。3人のうちの一人はこのドキュメンタリー製作時点で懲役刑に服しているわけで、要はアメリカの政治システムが個人を弾圧するための手段として機能しているということになる。
僕が若い頃、アメリカでは、報道機関が不正を働いた政府を倒すことさえできるという(ウォーターゲート事件)民主主義の理想みたいな見方さえされており、今のようなアメリカの姿はまったく予想さえできなかった。今のアメリカの姿は、行政システムも政治システムも途上国並みというのが実情である。不正を告発することさえ許されない。日本もアメリカと同じような道を辿っているが、個人的にはこういうことが身に降りかからないよう気をつけなければならないと考えさせられる。権力ってのは恐ろしいもんだとあらためて実感した。
トールグラス映画祭ゴールデンストランド賞、トラバースシティ映画祭特別賞受賞
★★★☆参考:
竹林軒出張所『アメリカの新たな戦争 無人機攻撃の実態(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ターゲット ビンラディン(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史(5)〜(7)(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『もうひとつのアメリカ史(8)〜(10)(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『福島原発の真実(本)』竹林軒出張所『知事抹殺 つくられた福島県汚職事件(本)』竹林軒出張所『あなたの顔は大丈夫?(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『中国 デジタル統治の内側で(ドキュメンタリー)』