テレビに映る中国の97%は嘘である
小林史憲著
講談社+α新書
興味深い記述は多いが
タイトルが内容を反映していない
中国で取材活動をしているテレビ東京の記者が、現場の目線でいろいろな事件を紹介していくという本。
2012年の反日デモ、中国の金持ち村、マオタイ酒バブル、チベット族の仏画バブル、2008年の毒ギョーザ事件、中朝国境の様子などを章単位でまとめており(全6章)、それぞれ取材の現場で見聞きしたさまざまな事柄を紹介していく。取材現場の臨場感が伝わってくるような記述で、外野である我々にとってはなかなか興味深い。特に反日デモの現場の様子(第1章)や毒ギョーザ事件のスクープ合戦の章(第5章)が面白かった。
反日デモについては、当時テレビでさかんに放送されたこともあり中国全土で暴力的なデモが繰り広げられたかのように思いがちだが、実はごく一部の地域・地区でしか行われなかったこと、破壊活動については一部の暴徒が暴走して略奪行為に発展したに過ぎなかったこと(ロックコンサートの熱狂みたいなものと著者は言う)、(あちこちのマスコミで取り上げられた)暴徒に襲われたという日本人記者がこの著者であること(これについても事情が詳細に書かれている)などが現場の目線で書かれていて、目からウロコである。また、中国当局による毒ギョーザ事件の犯人逮捕発表に際しての日中の温度差などもなかなか興味深い。日本人記者によるスクープ合戦はまさに現場の様子が臨場感とともに伝わってくるし、中国の農村が抱える貧困の問題も明らかにされていて、ジャーナリスティックな内容に仕上がっている。
そのため、取材記者が書いたジャーナリズム本として読めば十分楽しめるんだが、タイトルに少々アオリが入っていて、妙な期待をもって読むと少々失望する。このタイトルを見ると、日本での報道が中国の実情をまったく反映していないことを告発する本なのかと思うが、反日デモの章以外は、まったくもってそういう内容の本ではない。ただよくよく検証してみるとそう考えるのもこっち側の一方的な思い込みとも言えるわけで、著者が「まえがき」で書いているところによると「私のカメラを通じてテレビに映し出された中国という国は「嘘だらけ」の国だった」ということなんだそうだ。つまり、「報道が嘘だらけ」ということではなく「中国社会が嘘だらけ」というのが著者の主張のようなんである。誰が付けたタイトルか知らんがなんだか詐欺的ではある。とは言え、日本での中国の報道が必要以上に誇張されているのは事実のようで、このあたりについては反日デモの章でしっかり書かれている。そうは言っても、タイトルについては釈然としない感覚は最後まで残る。面白い本だけに少々もったいない部分である。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『在中日本人108人の それでも私たちが中国に住む理由(本)』竹林軒出張所『中国はなぜ「反日」になったか(本)』竹林軒出張所『中国人の本音(本)』竹林軒出張所『中国人一億人電脳調査(本)』竹林軒出張所『だまされて。 涙のメイド・イン・チャイナ(本)』竹林軒出張所『毛沢東の遺産 激論・二極化する中国(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『中国“経済失速”の真実(ドキュメンタリー)』