ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『名門オーケストラを救え』(ドキュメンタリー)

名門オーケストラを救え 佐渡裕“ 歓喜の歌”
(2006年・NHK/豪Vast Productions)
NHK-BSプレミアム ハイビジョン特集

老舗オーケストラ甦生の物語

b0189364_8305512.jpg パリの老舗オーケストラ、ラムルー管弦楽団の物語。
 このラムルー管弦楽団、パリにある3大民間オーケストラの1つで、楽団員自身が運営に携わり、ソリストや指揮者も楽団員が合議で決めるという、なんとも理想的なオーケストラ。しかもかつてドビュッシーの『海』やラヴェルの『ラ・ヴァルス』の初演まで行ったという輝かしい伝統まである。
 この絵に描いたような理想的なオーケストラが、財政難で存亡の危機に立たされた。今まで支援してきたスポンサー企業が撤退することになり、今後必要な予算(90万ユーロ)を確保できなくなることが明らかになった。スタッフ(といっても楽団員だが)や指揮者、団員はあちこち駆けずり回り、新たなスポンサー探しに奔走したり行政に補助金を頼んだりしたが結局支援の目途は立たず、年度末の演奏会をもって楽団120年の歴史を閉ざすことになった。
 最後の演奏会の演目は、ベートーヴェンの第九で、指揮者は佐渡裕。なんでも佐渡裕は1993年から首席指揮者を務め、楽団とも非常に良好な関係を築いていたという。楽団員の方も佐渡に全幅の信頼を寄せていたようで、そういうこともあって長期に渡り佐渡が指揮を執ってきたのだった。
 そんな中で、カメラは、最後の演目、第九のリハーサルから本番まで追っていくのだが、日本での第九のリハーサル風景や演奏会に見慣れている目からすると、これがなかなか面白い。要するに、第九は日本では年末恒例で何百回も演奏されているが、日本以外ではあまり演奏されることがないらしい。これは先日、佐渡裕がホストを務めるテレビ番組『題名のない音楽界』で、日本の楽団に所属する外国人演奏家が語っていた話なんだが、彼らは日本に来るまでは第九を演奏したことがなかったというのだ。それでいざ日本の楽団で第九を演奏する段になると、日本の楽団ではほとんどリハーサルなしで本番を迎えるらしいんだが(毎年演っているため)、外国人演奏家たちはそれまで一切経験なし(しかもリハーサルもなし)でいきなり本番に臨まなければならなくなるため非常に戸惑ったと言っていた。この番組で捉えられていた第九のリハーサルも、おそらく第九に初めて取り組んでいるんだろうなという姿勢が、ソリストや合唱団に見え隠れした。つまりどの歌手も、練習から本番まで楽譜を持って歌っているのだな(日本では普通第九の場合、歌手は楽譜を持たないものである)。唯一の例外はバリトン歌手で、彼は練習から本番に至るまで楽譜を持っていなかったが、風貌からするとどうも日本人のようで、なるほどさもありなんという印象である。
 ま、それはさておき、いよいよ最後の演奏会の前日という段になって、フランスの文化省から通知書が届き、75万ユーロの助成が決まったと知らされる。しかも足りない分はパリ市から出されるということもわかった。ということで存続の危機はとりあえず回避されることになった。関係当局に、楽団の価値があらためて認められたということだ。こうして迎えた演奏会は、佐渡裕の渾身の「歓喜(!)の歌」で聴衆を魅了することになったのだった……という、ちょっと安い映画のようなストーリーのドキュメンタリーである。ただしあくまでドキュメンタリーであり、事実に基づいているんであって、決して安いフィクションではないということに留意しなければならない。感動的な話じゃないの、ねえ。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『オーケストラの少女(映画)』
竹林軒出張所『カルロス・クライバーのドキュメンタリー2本』
竹林軒出張所『ベートーヴェンの使い回し』
竹林軒出張所『スラムのオーケストラ(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2015-01-14 08:32 | ドキュメンタリー
<< 『ジャックダニエル 伝統の製法... 『ピアノマニア 調律師の“真剣... >>