ブログトップ | ログイン

竹林軒出張所

chikrinken.exblog.jp

『日本語の考古学』(本)

日本語の考古学
今野真二著
岩波新書

研究者向けの専門誌に載った
論文集のような本


『日本語の考古学』(本)_b0189364_8262767.jpg 日本語で書かれてきた古典作品の原典に直接触れることで、日本語のあれこれについて考えるという本。タイトルに「考古学」という言葉が入っているのは、原典に対するアプローチが考古学を思わせるような手法で行われ、その成り立ちについて考察しているという点から付けられたものだろう。
 全10章構成になっており、万葉集から近世の印刷物に至るまでさまざまなものに触れていく。印刷術が利用されるようになるまでは、本が書写で複製されてきたことから、同時代の原典に忠実に今に伝えられているという事例はあまりない。一例を示すと、源氏物語についても、現存するのは、藤原定家が書写したと言われているいわゆる河内本や保坂本(室町時代中期頃の書写)で、どちらも鎌倉時代以降の書写である。したがって現代読み継がれている『源氏物語』が、紫式部が書いたものと同じであるという確証はない。それどころか今に伝わるまでいろいろな人間が書写に関わっているため、むしろ紫式部が書いた部分以外にいろいろなものが追加されている可能性が高い(第2章「『源氏物語』の「作者」は誰か」)。そのような考察を実際に原典に当たりながら行っていくというのがこの本である。
 いかにも専門家的なアプローチで興味深い箇所もあるが、導き出される結論がどうということもなく、考察の過程についても、もちろん専門家が研究する上では大切なんだろうが、面白味があまりない。全体的に、どことなく研究者向けの専門雑誌に載せるような短い論文みたいで、専門バカの皆さんで楽しんでくださいという内容である。
 他の章では、紀貫之をリスペクトしていた藤原定家が『土左日記』を写本したときに原本の文字判読に苦しんでいたという話や、和歌を表記するときに改行して和歌を書くようになったのはいつからかとか、あるいは書写の際の誤りが物語るさまざまな事実とか、そういう論考が連なる。古文に関心がある人でも面白いと感じないような素材が多いような気がする。狭いコミュニティ向けの本と言って良かろう。
★★★

参考:
竹林軒出張所『漢字伝来(本)』
竹林軒出張所『古典文法質問箱(本)』
by chikurinken | 2014-12-14 08:26 |
<< 『悪童日記』(本) 『漢字伝来』(本) >>