ソープランドでボーイをしていました
玉井次郎著
彩図社文庫
特殊な世界を垣間見る本 東日本大震災をきっかけに失職した仙台在住の著者が、スポーツ新聞で見つけた「ソープランドのボーイ」という仕事に飛びつき、ボーイとして吉原で過ごした8カ月間を経時的に記した著。著者が務めたソープランドは、利用するのに8万円もかかる高級ソープランドということらしいが、仕事は激務で、しかも縦社会であるため(年下の)先輩からのいびりなどもある。寮のマンションにボーイ4人(1部屋あたり2人)で住み、新人は店の雑用から部屋の雑用までこなし、眠りにつくのは朝5時。翌日は昼前から出勤という。ただし住み込みであるため、金を貯めようと思えば貯められるらしい。著者は、住宅ローン返済のために必死で稼ぎ、家庭に仕送りしていたという。
経験者でなければわからない特殊な世界の事情が事細かに紹介されていくため、内容は非常に充実しているが、文章はやや拙く手記の範囲を出ない。なんでも、経験を小説として描きためていたものを彩図社に送って採用されたことからこのたび出版されることになったという話で、あーなるぼどねという感じである。改行がやたら多いのも気になる点で、確かに読みやすくはなるだろうが(実際、2時間ほどで読んでしまったし)、こういうのはページ稼ぎと受け取られなくもない。
本書のように、閉鎖されている環境に入ってから出ていくまでを経時的に描くのは、異世界を描く上で効果的な手法で、『プラトーン』などの映画でも使われている。本書でも、特殊な環境に入っていくという臨場感が伝わるという点で効果を上げており、読みながら追体験できるようになっている。そのため純粋に、知らない世界が描かれた手記として読めば、十分楽しめると思う。
彩図社文庫にはこの手の本が多く、ちょっと『宝島』風ではあるが、あまり外れはないようで、しっかりと作られている印象はある。装丁などは拙いが、暇なときに読むには最適と言えるかも知れない。少なくとも、鉄道推理ミステリーを読んだときのように、なんという無駄な時間を過ごしたのだと思ったりするようなことはないと思う。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『ビンボーになったらこうなった!(本)』