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竹林軒出張所

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『エロティシズム』(本)

エロティシズム
フランチェスコ・アルベローニ著
中公文庫

男女のエロティシズムに対する感じ方の違いを
これでもかと紹介した本


b0189364_8524457.jpg 恋愛やセックスに対する男女の感じ方(つまりエロティシズム)について、著者自身の考え方を展開した本。また男女の性差(感じ方、考え方の違い)についても詳細に記述されており、性差に注目した本としてはかなり初期の本ではないかと思われる。
 性差について世間に新たな認識を喚起した本は、ピーズ夫妻の『話を聞かない男、地図が読めない女』ではないかと思うが、このピーズの本が2000年頃出版されたのに対して、本書は1986年刊行である。その先見の明は評価に値する。
 本書での性差に対する考え方は、ピーズの本以上に科学的論拠が示されておらず、つまるところ著者の独断に過ぎないわけだが、書かれていることは割合説得力があって、納得する箇所が多い。著者は精神分析医で、数多くの男女に聞きとりを行った上で本書を書いたということで、そういう部分が説得力につながっているのだろう。単なる独断と一蹴できないだけの説得力がある。
 著者によると、恋愛やセックスに対して女は継続性を求め、男は断続性を求める。これは男女関係にも共通で、男はあくまでもイベントとして逢瀬を楽しみたいが、女の方は出会った状態を続けていき、生活の範囲にまでこの関係を敷延することを理想とする。このように男と女にはそもそも嗜好性も発想法も異なるので、一緒にいれば当然矛盾が現れてくるが、そこにうまく折り合いを付ければ関係を持続させることができるということになる。
 他にも同性愛者のエロティシズムや男女が理想とする恋愛像なども細かく紹介されていて、こちらも興味深い。同性愛者のエロティシズムは、共産主義的な集団運動であるという見方は目からウロコである。また、女性がロマンス本に出てくるような恋愛を理想としているというのも興味深い。著者によると、男にとってのポルノが女にとってのロマンスものに相当するんだそうだ。これも意外。
 このように内容が非常に多岐に渡っており、ごく一部分を読んだだけでも感心する部分が多く、蘊蓄にあふれた本と言える。ただし翻訳のせいか原著のせいかわからないが、何が言いたいのかわからない箇所も結構多かった。ここらあたりはマイナス・ポイントである。
 また装丁もなかなかエロティックな絵でよろしい。いかにも男が好みそうな絵だが、一方で女性はどう感じるかわからない(読者も性差の実験台になっているのかしらん)。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『あなたの脳は男性?女性?(ドキュメンタリー)』

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以下、以前のブログで取り上げた男女の性差やエロティシズムに関連する本。

(2006年12月21日の記事より)
なぜ美人ばかりが得をするのか
ナンシー・エトコフ著、木村博江訳
草思社
b0189364_853426.jpg 男は女の何に惹きつけられるのか、女は男の何に惹きつけられるのかといったことを、さまざまな実験データを使って、心理学的、人類学的、生物学的にアプローチするきわめて真摯な本。タイトルと表紙の印象からあまり気が進まずに読み始めたが、非常に多岐に渡る素材がうまくまとめられており、言ってみれば現在の叡智が凝縮されたような本である。ちなみに原題は『Survival of the Prettiest -- The Science of Beauty(美しいものは生き残る -- 美の科学)』(こちらの方がしっくり来るような……)。
 男が女のどこに美を感じるか(相手の美に反応しやすいのは男の方だという。「男は写真で、女は履歴書で相手を選ぶ」)は、相手の生殖能力がその源になっている。つまり、丈夫な子孫を生むことができる体型や相貌に対して男は美を感じ、それに反応するという。いわゆる「美人」の顔は平均的な顔で、平均的な因子を持つ個体が長生きしやすいという事実から、平均顔である美人が好まれる。また、男がもっとも魅力を感じる(らしい)腰のくびれも、妊娠出産に最適な状態を表しており、女の若さも同様の理由で男が求めることになる。つまり男は、遺伝子を確実に残してくれる(可能性の高い)相手に魅力を感じ、恋をしてセックスに至るということらしい。要するに、人間もただの動物にすぎず、自然の力で動かされているに過ぎないという結論なのだろう。
 至極当たり前の結論が導き出されるわけだが、このあたりの論証で非常に多くの実験データが引用されており、なかなか説得力がある(実験データの信憑性についてはいくぶん疑問が残るものもあるが)。
 人間の美について幅広く探求しており「美人百科」といった趣もある。何度も読める良書だ。
★★★★

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(2006年6月23日の記事より)
人はなぜ恋に落ちるのか?―恋と愛情と性欲の脳科学
ヘレン・E・フィッシャー著、大野晶子訳
ソニーマガジンズ

b0189364_8535334.jpg 恋愛活動によって脳内がどのように反応しているか、生化学的に解明を試みる本。
 かつて、脳内化学物質の所在が明らかになってきたとき(1980年代中ごろ)に、『ケミストリー・オブ・ラブ 恋愛と脳のメカニズム』(恋愛の際に分泌される脳内化学物質について解明した本)という本を読んで、非常に感心したというか目からうろこが落ちた記憶があるが、この本も同様の方向性を持っている。ただ、この本では、生化学よりも自然人類学的なアプローチが多く、その辺は少し辟易した(著者が人類学者だから仕方ないが)。「男は原始時代から狩猟をして……」などという記述が出てくると、「そのあたりから検証した方がいいんでないかい」と思ってしまう。こういった自然人類学的なアプローチはほとんどが独断だと感じられる。
 また、さまざまな化学物質が唐突に紹介されて、わけがわからない箇所がいくつかあった。そういう意味で非常に読みづらい本であった。
 とは言うものの、脳内化学物質についてよくまとめられており、こういう分野の概要を把握する上では良い本かも知れない。
★★★☆

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(2006年12月11日の記事より)
愛はなぜ終わるのか―結婚・不倫・離婚の自然史
ヘレン・E・フィッシャー著、吉田利子訳
草思社

b0189364_8541070.jpg 人間の恋愛衝動や性衝動を、人類学的観点から説き明かす書。ほとんどは仮説や推測の域を出ないし、ちょっと眉唾な感もあるが、それでもこういう分析はなかなかおもしろい(そしてある部分鋭い)。少なくとも、そこいらへんの構造主義者の場当たり的社会分析よりもはるかに説得力がある。
 著者は人類学者であるが、自然人類学や文化人類学的なアプローチのみならず、リーボヴィッツ(『ケミストリー・オブ・ラブ』の著者)らの大脳生理学的アプローチも取り入れている。もちろん、恋愛の構造を分析するには必要な要素になるだろうが。
 男も女も遺伝子を残すために恋愛しセックスするが、男の場合、その生理構造上、不特定多数の女と交わることで遺伝子を残す可能性を高めることができる。一方女の場合は、できた子供を大切に育てることで、遺伝子を残す可能性を高めることができる。そのため男は、子供ができたら浮気に走りやすいし、女は子供が自立できる程度に育った時点で、男の助けが不要になり、別の遺伝子を残す可能性を探る。結婚4年目で離婚率がもっとも高くなるのは、このためであり、これは原始社会から人間が引きずっている性質だと著者は言う。ともかく男も女も、生物学的には一夫一婦の枠に収まらず、不特定多数と交流したがる(そういう衝動がある)ものだというのが著者の主張である。
 これまでのさまざまな分野の研究成果をまとめて(というか都合の良い部分を集めて)、人類学を駆使しながら恋愛のカラクリを解明するというのが本書の全般的な印象で、学術書というよりエッセイに近いと考える方が妥当かも知れない。
★★★☆
by chikurinken | 2014-08-16 08:54 |
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