刺青
(1966年・大映)
監督:増村保造
原作:谷崎潤一郎
脚本:新藤兼人
撮影:宮川一夫
美術:西岡善信
出演:若尾文子、長谷川明男、山本学、佐藤慶、須賀不二男、内田朝雄
美しい薔薇にはトゲがある
谷崎潤一郎の『刺青』の映画化。ということで「しせい」と読むのかと思ったら「いれずみ」とルビが振られている。原作との違いを強調しているのか知らんが、映画のストーリーは原作と大分違う。というより、『刺青』のストーリーも盛り込まれているが、同じ谷崎潤一郎原作の『お艶殺し』がストーリーの核になっていて、2つの作品を1つの作品として構成し直すというアクロバティックなシナリオなのである。この辺は新藤兼人の豪腕が伺える。
原作の『刺青』という作品自体は僕はまだ読んだことがないが、谷崎潤一郎と言えば変態的なイメージがあって、教科書に載せてもいいものかという疑念が高校生のときから僕にはあった。僕自身は高校生のときにエロ目的で『痴人の愛』を読んだが、露骨な性描写もなく、なんだかエロいんだかエロくないんだかよくわからないというのが読後感だった。ただこれはあまり大っぴらにすべきものではないという意識はあった。実際に谷崎作品が教科書に載っているのは見たことはなかったが、高校の授業では谷崎潤一郎の名前は普通に出てきた。しかし谷崎作品には、いつもなんだか少し後ろめたさを感じるというか、少なくとも「私、谷崎作品が好きなんです」などと大っぴらに言えるような雰囲気はない(実際、僕自身、谷崎作品はまったく好きではないが)。
したがってこの映画についても、文芸作品というよりも少しばかりB級……というかポルノ映画寄りのイメージを持っているわけだ。ここのところ、大映時代の若尾文子の映画を何本か借りたのでこれからしばらく紹介していくわけだが、谷崎作品も何本かあって、これもその1本というわけだ。もっとも製作者側は、スタッフが豪華なのを見ると、僕が感じるような後ろめたさみたいなものはまったくないようで、あくまでも文芸作品という位置付けなのかなとは思う。ただ内容は結構突っ込んでいて、若尾文子のセミヌードも随所に出てくるし、ラブシーンや血なまぐさいシーンも多い。非常に丁寧に作られていて、『お艶殺し』の映画化としてはよくできているが、正直良いのか悪いのかよくわからないという印象も残る。エンタテイメントに終始しているような印象がある一方で、これは果たして面白いのだろうかと感じる部分もある。そういう点では『痴人の愛』の読後感に近いわけで、谷崎作品の映画化としては存外うまくできているのかも知れない。
この頃の若尾文子は、毒婦をたびたび演じていて、この映画もご多分に漏れない。この映画でも、男を食い物にする恐ろしい女をあっさり目に演じている。この『お艶殺し』のストーリー自体、『痴人の愛』や『卍』なんかと共通する部分が多く、どの作品も言ってみれば舞台を変えただけと言えるかも知れない。谷崎潤一郎の趣味なんだろうなと思う。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『卍(映画)』竹林軒出張所『痴人の愛(映画)』竹林軒出張所『鍵(映画)』竹林軒出張所『細雪(映画)』竹林軒出張所『しとやかな獣(映画)』竹林軒出張所『ぼんち(映画)』竹林軒出張所『雁の寺(映画)』竹林軒出張所『好色一代男(映画)』竹林軒出張所『祇園囃子(映画)』竹林軒出張所『氷点(映画)』