里海 SATOUMI 瀬戸内海(2014年・NHK)
NHK総合 NHKスペシャル
「わしは○○じゃ」はいい加減やめたらどう?
瀬戸内海はかつては赤潮が頻発するような海域だったが、現在赤潮の発生は以前に比べるとはるかに少なくなっている。
これは実は漁民による牡蠣の養殖とアマモの播種が一因であり、漁民が自然に手を入れることによって環境を改善しているのだということを紹介するのが、このドキュメンタリー。このように海の生態系に人間が関わることで環境を維持する方法を、この番組では海版の里山ということで「里海」と呼んでいる。
瀬戸内海で現在行われている方法は、牡蠣を養殖するための牡蠣筏(ホタテの貝殻をつなぎ合わせて筏から垂らしたもの)を大量に海域に設置するという方法である。牡蠣筏には牡蠣の幼生が付いて牡蠣として成長する他、海藻やイソギンチャクなど他のさまざまな生き物も付着してくる。そうするとここに小魚が集まり、さらにそれを食うやや大きめの魚も集まって、海中生物の一つの生息環境になる。このような牡蠣筏が瀬戸内海全域で設置されるようになったせいで、それまで富栄養化の原因になっていた窒素化合物が牡蠣などの生き物に吸収され、水質が改善されてくる。
牡蠣筏と同時に、一部の漁民は、アマモを海域に広げるという運動を行っている。アマモが生育すると、そこが牡蠣筏以上の海洋生物の生息地として機能するようになり、生態系が多様化してくる。この番組では岡山の日生(ひなせ)の漁民が紹介されていたが、かれらはアマモを定期的に刈り取り、そこから採った種を別の場所に撒くなどしてアマモの生息域を広げる活動をしている。こういう活動の結果、捕れる魚が多岐に渡る(高価な魚も水揚げされるようになる)など、漁民の側も労力に見合った報酬を得ることができ、自然環境との間に持ちつ持たれつの関係が生じる。これはまさに、日本人と里山の関係が海に持ち込まれたようなもので、そこで「里海」と呼ばれているというのだ。しかもこの里海の考え方、世界中の同様の問題をかかえる海域にもその概念が浸透し始めており、"Satoumi"は世界中に広がりつつある。やがては成功事例も世界中で見られるようになるんじゃないかというそういう主旨のドキュメンタリーである。
きれいになった瀬戸内海の映像は非常に気持ち良く、見ていて心地良いドキュメンタリーで、しかも未来の明るさも見えてくる元気の出る番組でもあったが、相変わらず何かの生物を擬人化してナレーションさせる(今回は瀬戸内海の牡蠣、ナレーション担当は伊武雅刀)という演出を続けていて、そこら辺に毎度ながら違和感を感じる。どうしてこのNHKの自然ドキュメンタリーになると、「わしは瀬戸内海の牡蠣じゃ」みたいなああいう幼稚な演出をするんだろうかと首をかしげてしまう。自然ドキュメンタリーということになると本当に毎度毎度である。いつもいつも、なんだか馬鹿にされているような気になるんだが、気のせいか。そろそろやめてほしいもんだ、こういう馬鹿げた演出は。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『黒潮の狩人たち(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『ワイルドジャパン(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『「津軽」太宰治と故郷(ドキュメンタリー)』