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竹林軒出張所

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『ありあまるごちそう』(映画)

ありあまるごちそう(2005年・襖)
監督:エルヴィン・ヴァーゲンホーファー
脚本:エルヴィン・ヴァーゲンホーファー
出演:(ドキュメンタリー)

ヒヨコとネスレで決まり

『ありあまるごちそう』(映画)_b0189364_8282498.jpg 『フード・インク』に続く「食の社会見学」シリーズ第2弾ということで、映画の主張は『フード・インク』と共通する。この映画で取り上げられているのは、パンの大量廃棄の現場(オーストリア)、大企業によって追いつめられる従来型沿岸漁業(フランス)、工場で生産される大量のトマト(スペイン)、大企業によって追いつめられる従来型農業(ルーマニア)、大豆生産のために破壊される熱帯雨林の現状(ブラジル)、玉子から若鶏まで一貫生産する食肉工場(オーストリア)、ネスレCEOのインタビュー(スイス)など。
 途中まではありきたりの事例ばかりで非常に退屈していたが、終わりの方に出てくる鶏肉工場の映像が非常にショッキングだった。といっても似たような映像は『フード・インク』にもあったし『いのちの食べかた』という映画にもあったが、ただこの映像は何度見てもインパクトがある。それにこの映画では、親鳥の交尾から玉子の生産、これを羽化させた後狭く暗い環境で育てて、それを肉にするまでを丹念に追っているため、余計に印象が強い。それがすべて工場内で行われて、しかも鶏がすべてモノのごとく扱われ、流れ作業で食肉商品にされていく。その過程がカメラで詳細に捉えられていて、『シルシルミシル』の工場見学を見るような印象すら受ける。ただしここで扱われる原料は、カカオバターやジャガイモではなく生き物である。命のあるものにもかかわらず、モノのように放り投げられ捕まれて吊され、流れ作業で殺され、首を切り落とされて身体を切り刻まれていく。若鶏のピヨピヨ鳴く声が途中までずっと続いていて、さながら鶏たちの悲鳴のようにも聞こえるんだが、それが途中から一切聞こえなくなるので余計怖い。結果的に食の工業化に対する違和感が十二分に表現される結果になった。そういうわけでこの映像だけでもこの映画の価値はあると言える。
 その後に出てくる多国籍企業ネスレのCEOのインタビューがこれまたインパクト大であった。従業員のため社会のためみたいなことを語るが、その後は調子が出てきたのか、有機農業に対して嫌悪感を表明し遺伝子組み換え食品を賞賛しはじめる。これだけでも聴いていて結構不快なのに、さらには水の供給を民営化すべきことを訴える。「水は公の権利であって誰にでも水を得る権利がある」という考え方を「極端な主張」として退け、水は他の食料品と同じように市場で扱うべきものであり、金を払って水を買えない人については(例外として)何らかの手段で提供する(手段については明言していないが)と言う。そのうえワークシェアまで失敗だと切り捨てていた。この人の主張は、こういう映画を見る人にとっては絶対に受け入れられない反動的な言動で、この映画の中ではアクション映画での極悪ボスキャラのような存在である。よくこの映画に登場してこのようなことを語ってくれたものだと感心する。
 途中まで眠くてしようがなかったが、鶏工場とこのネスレCEOのインタビューで完全に目が覚めた。この映画をDVDで見る人は、開始後1時間8分のところから見ると良いだろう。
★★★

参考:
竹林軒出張所『フード・インク(映画)』
竹林軒出張所『いのちの食べかた(映画)』
竹林軒出張所『Love MEATender(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『罠師 片桐邦雄・ジビエの極意(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『フォークス・オーバー・ナイブズ(映画)』
竹林軒出張所『100マイルチャレンジ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『食について思いを馳せる本』
竹林軒出張所『デイ・ゼロ(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『黒潮の狩人たち(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2014-04-07 08:29 | 映画
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