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竹林軒出張所

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『人間仮免中』(本)

人間仮免中
卯月妙子著
イースト・プレス

マンガはバクハツだ

『人間仮免中』(本)_b0189364_915187.jpg よくは知らないが、著者は企画モノAV(SM、スカトロ、ゲテモノなど)に出ていたAV女優でありながら、マンガ家でもあったという異色の経歴を持つ人。しかも同時に若い頃から統合失調症を煩っており、最初の夫は自殺未遂の後植物状態(後に死亡)、2人目の夫も神経症になるという、もう異色どころではない経歴の持ち主。さらに身体中に自傷の傷を持ち、背中には元夫の戒名と般若心経の刺青があるというのだから、我々凡人とは住む世界がまったく違う。
 その卯月妙子が半生を振り返ったのがこのエッセイ・マンガ。絵は荒れまくりだが(著者の他のマンガの表紙を見ると割合きれいな絵なんだが)、中身は壮絶。メインとなるストーリーは、3人目の夫(となったかよくわからないが)、通称ボビーと出会い、立ち直っていくという話(間に上に書いたような彼女の前半生が何気なく紹介されていく)。ただしそこは著者のこと、生半可なことでは終わらず、歩道橋から飛び降り自殺を図り、一命は取り留めるが頭蓋骨が複雑骨折して奇天烈な顔になってしまう。これだけでも恐ろしげなんだが、入院中は統合失調症の症状(幻覚や妄想)で悩まされることになり、その内容についても詳細に語られていく。読んでいて怖くなる。
 退院後はいろいろな人々の優しさを感じ、このマンガを描く境地にまで至ったということで、それでできあがったのがこの半生記である。あまりに壮絶で、決して何度も読みたくなるものではないし、こういうタイプの人とは是非距離を置きたいと思うが、しかしこれを1つの文学と考えれば、ちょっと前例を見ない異色作であるのは間違いない。内容が分裂病的で激烈ではあるが、著者が自身の過去のことを比較的冷静に振り返っているために、話の流れとして完成、完結している。絵は荒れていて稚拙だが、全体的に統一感がある上、しかもギャグ・タッチで描かれているため、必要以上に深刻にならずに済むという効果をもたらしている。このあたりは吾妻センセイの『失踪日記』と共通する部分である。先ほども言ったように何度も読もうとは思わないが、快作であるのは間違いない。読んでいて「快く」はないけど。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『今日もテレビは私の噂話ばかりだし……(本)』
竹林軒出張所『統合失調症がやってきた(本)』
竹林軒出張所『失踪日記2 アル中病棟(本)』
竹林軒出張所『酔うと化け物になる父がつらい(本)』

by chikurinken | 2014-02-07 09:03 |
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