キング牧師とワシントン大行進
(2013年・米Sundance Productions/Smoking Dogs Films)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー
歴史的な出来事が目の前に甦る アメリカの公民権運動において象徴的な出来事と言えば、1963年のワシントン大行進。これをきっかけに公民権法の制定の流れに拍車がかかった。そしてワシントン大行進と言えば思い出されるのが、マーティン・ルーサー・キング牧師の有名な演説「I have a dream」。このドキュメンタリーでは、ワシントン大行進がどのように企画され、どのように進められて、キング牧師の演説に至ったか、その背景からわかりやすく紹介し、ワシントン大行進の映像を交えて報告していく。
モンゴメリー・バス・ボイコット事件に端を発して盛り上がった公民権運動だが、その後徐々に後退していく。一方で南部における黒人に対する迫害事件はとどまることはなかった。そんな折に大統領になったのが(自由主義的と評判の)ジョン・F・ケネディ。自由を求める黒人たちは一様に彼に期待したが、実際には大統領が政府内の保守勢力を抑えることができず、期待されていた公民権の立法化もなかなか進まない。このような背景で企画されたのがワシントンでの大規模かつ平和的なデモである。行政機関、立法機関に心理的圧力をかけようというのが当初の狙いであった。
一方、ホワイトハウス側は、このデモが暴動に発展することを警戒し、事前に主催者側にさまざまな要求を出していく。主催者側も彼らと適当に折り合って準備を進めながら、同時に民主的な考えを持つ全米の人々にワシントンのデモに参加するよう促す。ハリウッドでは、ハリー・ベラフォンテの主導により、チャールトン・ヘストンやマーロン・ブランドも参加を表明。結果、さまざまな有名人がこの企画に参加することになった。
主催者側は、参加者が集まらず失敗に終わることを危惧していたが、蓋を開けてみると20万人もの人々が集まり、しかも行政側が危惧したような暴動も起こらず、すべてが平和的に進行した。ジョーン・バエズ、ピーター・ポール・アンド・マリー、ボブ・ディランらも歌で参加し、黒人と白人が手を取り合って公民権を訴えるという大集会になる。さまざまな代表者が演壇に上って演説を行い、そして最後に演説したのが、主催者の1人であるキング牧師。そしてその演説は伝説となる。
集会後、大統領はホワイトハウスに主催者たちを招き入れ、かれらの仕事をねぎらったという。そして翌年に公民権法は議会を通過し、ついにアメリカは、制度上平等主義を確立することになる。その後、キング牧師はノーベル平和賞を受賞するが、その2年後凶弾に倒れることになる。
番組では当時の映像がふんだんに紹介され、バエズやPPMの当時(そして今)の映像が出てきて、当時を知らない僕などには非常に新鮮だった。またキングの演説の映像も出てくる。僕にとっては歴史上の1つの出来事であるが、このドキュメンタリーできれいな映像で紹介されているため、同時代の出来事であるかのように現実的に接することができた。資料的価値が高いドキュメンタリーと言える。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『人種隔離バスへの抵抗(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『グローリー 明日への行進(映画)』竹林軒出張所『ミシシッピへの旅(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『クー・クラックス・クラン 白人至上主義結社KKKの正体(本)』