今年も恒例のベストです。当然「僕が今年見た」という基準であるため、各作品が発表された年もまちまちで、他の人にとってはまったく何の意味もなさないかも知れませんが、個人的な総括ですんで、ひとつヨロシク。
(リンクはすべて過去の記事)
今年見た映画ベスト5
1.
『アギーレ・神の怒り』2.
『アメリ』3.
『仕立て屋の恋』4.
『トキワ荘の青春』5.
『シベールの日曜日』 なんと全部再見の映画になった。まあ老い先も短くなってきたんで、今後は新しい映画よりもこれまで見て気に入った映画を中心に見ていくようなことになるかも知れない。今年はその先駆けということになるかな。ただ、それぞれの映画に感化されて……というか似たような傾向の映画や本にまとめて触れたりしたのも事実。たとえば『アギーレ・神の怒り』については、監督のヴェルナー・ヘルツォークの作品を他にも数本見ているし、『トキワ荘の青春』についても、その手のマンガや本を読みあさっている。多角的にアプローチしようというスタンスの現れととっていただいて結構。
今年見たドラマ・ベスト5
1.
『沿線地図』2.
『今朝の秋』3.
『冬構え』4.
『かすていら』5.
『終電バイバイ』 こちらも再見のドラマが多い。そもそも今年は山田太一脚本のドラマを(意図的に)たくさん見たので再見作品が多くなるんだが、当然のごとく昨今のドラマと比べると段違いに質が高いんで、ランキングを作れば当然こちらが上位に来る。ホントは全部山田作品にしたかったぐらいだが、それでも『かすていら』は割によくできていたドラマだし、『終電バイバイ』も、斬新でありながら非常に感性的な側面も併せ持つというちょっとこれまでにない作品で、この脚本家(岩井秀人)、ただものではないと感じた。そういうわけでここに2作品取り上げたわけ。
とは言っても『沿線地図』と『今朝の秋』は(あらためて見たものだが)圧巻だった。これは絶対外せないところ。
今年読んだ本ベスト5
1.
『奥の細道 マンガ日本の古典25』2.
『BORN TO RUN 走るために生まれた』3.
『山椒魚戦争』4.
『日本語の文法を考える』5.
『チャップリン自伝 ― 若き日々』 『マンガ版奥の細道』は、『奥の細道』に対する見方を180度覆してくれた快作で、完成度と言い、原著に対する著者の理解と言いまったく申し分ない。中央公論社の『マンガ日本の古典』シリーズはなかなかの秀作が揃っているが、『奥の細道』はその中でも屈指である。何度も読みたい作品であり、できれば著者には『奥の細道』全体をカバーしたものにひきつづきトライしてほしいものである(この『マンガ版奥の細道』はほぼ出羽路のみ)。
『BORN TO RUN 走るために生まれた』は、メキシコ奥地に住むという、謎の走る民族を追ったノンフィクションだが、内容がスリリングで読み応えがあった。ただ、まったく未知の世界の話なんで文章だけではなかなか想像しにくい面もあったことは確か。だがこの作品にちなんだドキュメンタリーも出ていて、そちらを見れば現実の世界にかなり近づけるんではないかと思う。もちろんそれなしに、読みものとして楽しむのも良いものではある。
『山椒魚戦争』は、永らく読みたいと思っていて二の足を踏んでいた著作だが、期待どおりの作品だった。題材自体は実にバカバカしいんだが、ここまで徹底して描かれると(しかも風刺を込めて)脱帽である。語り口も非常にうまいので、読み始めたら止められない。小説としても一流である。
『日本語の文法を考える』と『チャップリン自伝 ― 若き日々』は再読。『日本語の文法を考える』に至っては今回3回目だし、類書の
『古典文法質問箱』も今2回目を読んでいるところ。国語学の面白さを堪能できる大野晋の快作である。『チャップリン自伝 ― 若き日々』もサクセス・ストーリーであり、当時の英国の下層階級の事情を報告するルポにもなっていて、密度が濃い。
今年見たドキュメンタリー・ベスト5
1.
『大海原の決闘! クジラ対シャチ』2.
『映像記録 市民が見つめたシリアの1年』3.
『100年インタビュー 脚本家 山田太一』4.
『外国人が見た禁断の京都 -芸妓誕生-』5.
『風に吹かれてカヌー旅』 『大海原の決闘! クジラ対シャチ』は、生き物ドキュメンタリーで、クジラとシャチの生をめぐる攻防を描く意欲作。なによりこれだけの映像が撮れたということがスゴイ。それに映像を駆使した解説も必要十分で、野生生物ドキュメンタリーの傑作と言ってよい。巷で話題になっている
『ダイオウイカ』よりずっとグレードが高いと思う(『ダイオウイカ』同様、『クジラ対シャチ』もDVD化されたようです)。
『市民が見つめたシリアの1年』はドキュメンタリーWAVEの1本だが、ドキュメンタリーの鑑というべき作品。報道機関が伝えるべき現実というのはこういうものを言う。当局の統制のために外に伝わってこない現状が報告されるんだが、その現実感、切迫感は他に類を見ない。何度も再放送して、日本国の住民に現状を知らしめる役割を果たしてほしいと思う。それこそがジャーナリズムというものである。
『100年インタビュー 脚本家 山田太一』は山田太一のインタビューだが、当事者しか知りえない当時の放送界の裏話が語られていてなかなか興味深かった。脚本家の名前を冠した最初のドラマが『男たちの旅路』だというのも初めて知った事実だった。
『外国人が見た禁断の京都 -芸妓誕生-』は、普通なら目にすることができない情景を美しい映像で描くという画期的な企画で、グレードが非常に高い。外国向けの番組というのがもったいないほどで、これも何度も再放送していただきたい作品である。
最後の『風に吹かれてカヌー旅』は、カヌー家、野田知佑の旅を追ったドキュメンタリーで、野田氏と一緒に旅をしているかのように感じられる快作である。しかも舞台はモンゴルと来ている。まさに
『世界の川を旅する』の映像版で、こちらもずっと後世に残していただきたい作品であった。
というところで、今年も終了です。今年も1年、お世話になりました。また来年もときどき立ち寄ってやってください。
ではよいお年をお迎えください。
参考:
竹林軒出張所『2009年ベスト』竹林軒出張所『2010年ベスト』竹林軒出張所『2011年ベスト(映画、ドラマ編)』竹林軒出張所『2011年ベスト(本、ドキュメンタリー編)』竹林軒出張所『原発を知るための本、ドキュメンタリー2011年版』竹林軒出張所『2012年ベスト』竹林軒出張所『2014年ベスト』竹林軒出張所『2015年ベスト』竹林軒出張所『2016年ベスト』竹林軒出張所『2017年ベスト』竹林軒出張所『2018年ベスト』竹林軒出張所『2019年ベスト』竹林軒出張所『2020年ベスト』竹林軒出張所『2021年ベスト』竹林軒出張所『2022年ベスト』竹林軒出張所『2023年ベスト』