沿線地図(1979年・TBS)
演出:龍至政美、大山勝美、福田新一、片島謙二
原作:山田太一
脚本:山田太一
出演:岸惠子、河原崎長一郎、児玉清、河内桃子、真行寺君枝、広岡瞬、笠智衆、新井康弘、野村昭子、三崎千恵子、楠トシエ、岡本信人、風間杜夫
70年代屈指のドラマの1本 これも、若い頃見てその後永らく見たかったドラマで、見たいと思うようになってから30年以上が経っている。ああそれなのにそれなのに、なかなか放送されることはなく、もう一度見たいという思いがあまりに強かったために、結局シナリオを読むことでお茶を濁していた。今回ついにCSのTBSチャンネルで放送されたんだが、過去TBSチャンネルに幾度かリクエストを出してきたこともあり、「やっと」の感が非常に強い。
さていよいよ今回見ての感想だが、期待に違わず、非常に内容充実で存分に楽しめた。前に見たときは学生だったために、子どもの側の視線だったように思うが、今回は大人の側の視線になっているのが興味深い。見る人の立場によって異なる感じ方を持てるのがこのドラマで、さまざまな視点で見ることができると言える。
卒業を数カ月後に控えた高校3年生の男女(真行寺君枝、広岡瞬)が通学途中で顔見知りになり、ありきたりの生活に見切りを付けることを決意して、駆け落ちするところから話が始まる。ただし、駆け落ちといっても恋愛感情があふれて思いあまってというものではなく、とにかくパターン化された人生を変えてみたいという思いからしたもので、駆け落ちというより共同戦線といったイメージが強い。そのあたりがそもそも異色である。
当然のことながら、2人の両親(岸惠子、河原崎長一郎、児玉清、河内桃子)は、かれらを家に連れ戻すためにあれこれ画策するんだが、子どもたちから突きつけられる真摯な思いは、親の方の価値観まで揺るがしてしまうというありさまで、親やその周辺にも影響が徐々に広がっていくという話である。
女生徒が秀才の男生徒に近付くことで話が動き出すが、そこからその影響が少しずつ波紋のように周囲に広がっていって、大人たちがそれに慌てふためきながら、価値観の転換を余儀なくされるところまで、ごく自然に話が展開していくのも秀逸で、これだけ違和感なく自然に話が展開するドラマもなかなかないんじゃないかと思う。いろいろな問題点が視聴者に突きつけられ、考えることが要求されるのも、この頃の山田ドラマらしい。なんせ第1回目の予告編で「皆さんも一緒に考えてください」というナレーションが入っていたくらいだ。
前も言ったように、今回は完全に親の立場でドラマを見ていたので、最低限高校は卒業した方が良いんじゃないかなどと思ったが、そもそも主役の2人はそういう考えに反発をもったわけで、もし自分の子どもがこういう風に家を出て行ったらいかんともしがたい。良い高校を出て良い大学を出て有名企業に入るという「ありきたりな生き方」にはまったく共感しないが、この2人の場合はかなり極端な生き方で、客観的に見ていると若気の至りにしか見えない。
しかしなんと言ってもこのドラマで一番面白かったのは、だんだん変な風になっていく親たちの生活で、世間の常識に対して今まで疑問を持たずに生きてきた人々が、少しずつ歯車を狂わせながら、自分の価値観に向き合うことを余儀なくされていく過程は圧巻である。同時期の『岸辺のアルバム』ほど有名ではないが、それに勝るとも劣らない(個人的にはあれを凌駕しているとさえ思う)傑作ドラマで、シナリオだけでなく、演出、キャストとも申し分ない。それからテーマ曲のフランソワーズ・アルディの『もう森へなんか行かない』も秀逸。ドラマ全体の雰囲気をテーマ曲だけで定義しているかのようである。今回見ることができて本当に良かったと思う。TBSチャンネルに感謝だ。TBSはDVDも出したら良いのにと思う。
★★★★参考:
竹林軒出張所『テレビがくれた夢 山田太一 その2(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』竹林軒『昔のドラマ』竹林軒出張所『早春スケッチブック(1)〜(4)(ドラマ)』竹林軒出張所『空也上人がいた(本)』