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竹林軒出張所

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『山椒魚・遙拝隊長 他7編』(本)

山椒魚・遙拝隊長 他7編
井伏鱒二著
岩波文庫

今でもべつに『山椒魚』のことを
嫌ってはいないんだ


『山椒魚・遙拝隊長 他7編』(本)_b0189364_7274822.jpg 井伏鱒二の短編集。井伏鱒二と言えば『山椒魚』、『山椒魚』と言えば井伏鱒二というぐらい『山椒魚』が有名で、僕も高校生のときに教科書で接したが、正直何が面白いのかさっぱりわからなかった。当時は「なんたる失敗作であることか!」程度の感想しかなかったんだが、いつまでも気になっていた小説で、いつかはもう一度読み直してみようと思っていたのだった。理解し合えないままお別れというのもどうかと思ったから。
 さて今回いよいよ読んでみての感想だが、やはりよくわからない。読み終わった後少し妙な感覚は残るが、発表時何が評価されたのかよくわからない。自身が編集者に缶詰めにされた経験を戯画的に描いたのかとか、ストックホルム症候群のことを言っているのかとかいろいろ考えたが、なんだかどれもピンと来ない。
 まあでもそれはそれでしようがないので、他の8編の短編小説も続けて読んでみた。井伏鱒二の味というのがわかるかも知れないと思ったためで、それに元々短編小説は好きだったことだし。で、全部を読み終わってなんとなくこれが井伏鱒二の作風なのかというのは掴めてきた。少し不思議な感覚で何とも表現しようがないが、これが彼の作品の味わいなんだろうなーというのはわかった。終わり方が随分唐突なのもある。小説の既成概念を超えているということなんだろうか。
 本書に収録されている作品は、表題作の『山椒魚』と『遙拝隊長』の他、『鯉』、『屋根の上のサワン』、『休憩時間』、『夜ふけと梅の花』、『丹下氏邸』、『「鎚ツァ」と「九郎治ツァン」はけんかして私は用語について煩悶すること』、『へんろう宿』の9作。個人的に気に入ったのは『「鎚ツァ」……』と『遙拝隊長』で、『夜ふけと梅の花』も変わっていてユニークだと思った。ましかし、いずれにしても、僕にとってそれほど入れ込むような作家ではないというのが正直な感想である。
★★★

参考:
竹林軒出張所『井伏鱒二の世界(ドキュメンタリー)』
竹林軒出張所『富嶽百景・走れメロス 他八篇(本)』
竹林軒出張所『冬の花火 わたしの太宰治 (1)〜(13)(ドラマ)』
竹林軒出張所『山椒魚戦争(本)』

by chikurinken | 2013-11-22 07:27 |
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