五番町夕霧楼
(1963年・東映)
監督:田坂具隆
原作:水上勉
脚本:鈴木尚之、田坂具隆
出演:佐久間良子、河原崎長一郎、木暮実千代、千秋実、岩崎加根子、丹阿弥谷津子、宮口精二
非常にしっかり作られているが
最後は少々だれる
水上勉原作の同名小説の映画化。金閣寺放火事件がモチーフになっている。ただし主人公は、放火犯(河原崎長一郎)ではなくその幼なじみの遊郭の女性(佐久間良子)。
演出は丁寧で、しかも大がかりなセットをこしらえるなど美術も豪華である。しっかり作られていて、60年代の映画界のパワーを感じる。映像もきれいにまとめられている上、キャストの演技も非常にうまい。特に千秋実と端役の東野英治郎が良い。河原崎長一郎も良い味を出している。
難点は終わりの方がやけに辛気くさくなったことと会話中心に進みすぎたことで、最後の十数分は少々難あり。それまでが良いテンポで進んでいただけに残念至極である。
原作では寺の堕落が告発されているらしいが、この映画ではそういう部分は皆無である。京都の仏教界に配慮したのか知らんが、そのために金閣寺(映画の中では「鳳閣寺」)放火の動機付けが弱くなってしまった。おかげで放火犯の櫟田の行動が謎のままになっている。犯人が主人公でないからそれでOKと考えることもできるが、寺に対する攻撃は水上勉の本領ではないかとも思う。そういう点では骨抜きになってしまったような感覚もある。
なお似たモチーフの映画に市川崑の
『炎上』があり、こちらは放火犯の方がフォーカスされていて正攻法で、放火犯を演じる市川雷蔵とその同級生の仲代達矢の演技がすさまじい立派な映画だった。また『五番町夕霧楼』は80年代にも松坂慶子主演でリメイクされている。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『炎上(映画)』竹林軒出張所『雁の寺(映画)』