黒い鷲
バロン吉元著
中央公論社
エンタテイメント満載
先日読んだ
『マンガ版徒然草』の作者がバロン吉元だったことから、昔(少しだけ)読んだ同氏作の『黒い鷲』を思い出し、それで今回、このマンガを入手して読んでみたという次第。バロン吉元という名前は最近ではあまり聞かないし、この『黒い鷲』自体今は売られていないようで、そのため古本を購入した。
ストーリーは、フランスに美術留学した主人公、長宗我部天平(ちょうそかべ・てんぺい)が、その後、軍用パイロット志望に転じ、やがて一流のパイロットになるという話で、背景となる時代は第一次大戦時である。そのため天平が乗り込む飛行機も複葉機で、フィクションの話としては時代、設定とも珍しく、非常に目新しい。全体的にややマンガ的なご都合主義が目立つが、それでもエンタテイメント的な要素が散りばめられていてサービス精神満点である。そのため読んでいて飽きることはない。このマンガ、元々1973〜74年に『少年サンデー』に連載していたマンガだが、この頃の少年マンガの1つのパターンを踏襲しており、主人公の天平は飛行機の操縦能力に天才的な、というか本能的な才能を持つ。同時に奔放で、すこぶる愛すべき人物。女の子たちにももてて、それでいて敵陣に正面から突入したりと豪放磊落な面もある。そんな都合の良い人間いねーよ……と思う人もいるかも知れないが、ま、エンタテイメントだから。
話の展開は先ほども言ったようにご都合主義的なところが多いが、それでもこれはというシーンがきちんと配されていて、それなりに感動を呼ぶ。特に複葉機でパリの凱旋門をくぐろうとするシーンや、ハンス・クルーゲと対決するシーンは感動的。そういう点でも著者の手腕が光る。
惜しむらくは、おそらく当時執筆スケジュールが厳しかったせいだろうが、途中読者の投稿ハガキを使って遊んでいるような箇所があったりして、作品の完成度を損なう結果になっている点である。連載マンガとして読んでいる分には、ま、楽しくもあるんだろうが、こういうふうにまとまった形で出てくると、なんだか手抜きみたいに感じられて、少し興が醒める。締切のせいだというのは容易に想像できるが、こうなってくると週刊マンガ誌の連載というのも功罪相半ばと言える。『徒然草』の完成度に思いを馳せると、こういう形で描くしかなかった著者の思いやいかんなどと感じてしまうのである。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『徒然草 マンガ日本の古典17(本)』竹林軒出張所『親鸞(1)〜(3)(本)』