失踪日記2 アル中病棟
吾妻ひでお著
イースト・プレス
やっと出た! 『失踪日記』の続編 吾妻センセイの名著『失踪日記』の続編がついに出た。『失踪日記』以来この作品に取り組んできたというから、8年間かけてこの330ページに及ぶ大著を描ききったということになる。当然締切に追いまくられることもなく、自分のペースで納得できるまで描き込んでいるため、完成度が非常に高い。『失踪日記』や
『地を這う魚』も完成度は高かったがそれ以上で、逆にそのために吾妻ひでおらしさが少々薄れている。
内容は『失踪日記』のなかの「アル中病棟」と若干重なり、入院時代の話である。『失踪日記』と内容が若干かぶってはいるが、むしろ続きと考えるのが良い。アルコール依存症者向けの病院(アル中病棟)での話で、なかなかよそでは聞けない話ばかりで面白い。とは言うものの、僕の場合吾妻ひでおの別の本(
『実録! あるこーる白書』など)で病院内の話を読んでいて、ある程度知識があったので、意外さはそれほどなかったのだった。しかしこういう知識がない普通の人にとっては
『刑務所の中』や
『南極料理人』みたいな目新しい視点を提供してもらえるのは確か。そう言えば
『入院しちゃった うつウーマン』も精神病院の閉鎖病棟の話で内容が結構かぶっていたが、どちらもまだ読んでいない人はこの『失踪日記2 アル中病棟』を先に読む方がよかろうと思う。
ただたとえ閉鎖病棟について多少知っていても、このマンガの面白さが損なわれることはない。特に人間観察の鋭さや独特のユーモアの感覚は吾妻ひでお特有のもので、『失踪日記』には及ばないまでもそれに迫る作であることは疑いない。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『実録! あるこーる白書(本)』竹林軒出張所『逃亡日記(本)』竹林軒出張所『地を這う魚 ひでおの青春日記(本)』竹林軒出張所『夜の帳の中で(本)』竹林軒出張所『刑務所の中(本)』竹林軒出張所『刑務所の前 (1)〜(3)(本)』竹林軒出張所『飲んで死にますか やめて生きますか(本)』竹林軒出張所『私、パチンコ中毒から復帰しました(本)』竹林軒出張所『入院しちゃった うつウーマン(本)』竹林軒出張所『「教えて★マーシー先生」って……』竹林軒出張所『ルポ 死亡退院(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『オンラインカジノ 底知れぬ闇(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『クリック・ベット(ドキュメンタリー)』追記:
以下、以前のブログで紹介した『失踪日記』の評の再録。
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(2005年9月9日の記事より)
失踪日記
吾妻ひでお著
イースト・プレス
これはすごい。
吾妻ひでおと言えば、かつて少年チャンピオンで長期間にわたり連載を持っていたメジャー漫画家である。少年チャンピオンの連載時(「ふたりと5人」、「エイトビート」など)が僕の子供時代と一致する。80年代は、ミニコミで書いていたのをちょくちょく見ていたので、そのミニコミ誌の方がメジャーになったのかと勘違いしていたくらいだ(その辺の事情もこの本に書かれている)。
ともかく、そのメジャーな漫画家が、いろいろなことに行き詰まり、89年11月、突然失踪し、ホームレスになった。その後警察に見つかって、いったんは家に戻り仕事にも復帰するが、92年4月、ふたたび突然(家族の視点から言うと)いなくなってしまう。本人はふたたびホームレス生活に戻り、その後、ガスの配管工としてスカウト(!)され、再度、警察に連れ戻される。再度復職するが、今度はアルコール依存症になり、精神病院に入院することになる。
こういう異色の経歴が、表現者である当人によって(マンガという手段で)語られたのがこの本である。その内容たるやすさまじいばかりだが、ギャグマンガの手法でこれを描いているため、かなり笑えるのだな、これが。冒頭に「この漫画は人生をポジティブに見つめ、なるべくリアリズムを排除して描いています」「リアルだと描くの辛いし暗くなるからね」と書かれているが、その意図は十分成功している。内容自体はかなり悲惨なんだが。
全体を通してなんとなく前向き(現在の著者の心境を反映しているのだろう)で、人間生きてりゃ何とかなるなと思わせる。来るべきサバイバル時代に備え、ホームレス教本として読むこともできる。ちなみに続編もある(出る?)ようだ。
★★★★