マルタのやさしい刺繍
(2006年・スイス)
監督:ベティナ・オベルリ
原案:ベティナ・オベルリ
脚本:ザビーヌ・ポッホハンマー
出演:シュテファニー・グラーザー、ハイジ・マリア・グレスナー、アンネマリー・デューリンガー、モニカ・グブザー
丁寧に作られた老人映画
スイスの田舎町が舞台。夫を亡くして立ち直れないマルタお婆ちゃんが、あるきっかけでかつての夢を叶えることを思い立ち、人生に前向きに立ち向かえるようになるという話。もちろん途中さまざまな障害が現れて危機に陥るが、いろいろな力や助けを得ることでそれを超えていく。ある意味パターン化された展開で、多少予定調和の感はあるが、全体によくまとまっていて、安心して見ていられるような映画である。
世間から虐げられる立場にある人々(特に老人)の逆襲という意味合いもあって、弱者に対する応援メッセージになっている。弱い立場の人々が幸福を求めて未来を切り開いていく姿は一般的に受け入れやすいもので、見ている側も応援したくなる。そういう意味でも、見た後は爽快感が残って気持ちの良い作品である。
老人の映画やドラマもいくつかあるが、どちらかと言うと「老い」自体を問題にしたようなものが多く、老人が何かを作っていくというものはあまり記憶にない。一方で主人公が何かを作っていき世間をあっといわせる映画は結構あり、この映画のミソは老人をそういう位置に据えたという点にあるのかなと思う。そのため目新しさはあまりないが、丁寧に作られていて破綻もなく、ストーリーにもうまく起伏を作っているため、優良な映画と言える。スイスの田舎町の映像も美しく、観光した気分も味わえる……かな。そういう点では劇場向きだったかも知れない。
★★★☆
追記:登場する老女優の皆さんは、どれも名優だそうで、日本で言えば杉村春子とか乙羽信子とかのクラスになるんだろうか。そう言えば杉村春子と乙羽信子が出た老人映画(『午後の遺言状』)もあったが、あれはつまらなかった。老人映画を作るんなら、いっそのことこの映画のストーリーを拝借してしまえばどうだなどとも考えてしまうが、残念ながら杉村さんも乙羽さんもすでに鬼籍に入っていたんだった。
参考:
竹林軒出張所『喜劇 にっぽんのお婆あちゃん(映画)』
竹林軒出張所『野いちご(映画)』
竹林軒出張所『ながらえば(ドラマ)』
竹林軒出張所『極楽家族(ドラマ)』