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竹林軒出張所

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『マンガ古典文学 方丈記』(本)

マンガ古典文学 方丈記
水木しげる著
小学館

最上級の『方丈記』ガイドブック

『マンガ古典文学 方丈記』(本)_b0189364_8183975.jpg 『マンガ古典文学』は、小学館が今年から刊行しているシリーズで、「小学館創立90周年記念企画」ということになってる。中央公論社の『マンガ日本の古典』シリーズに対抗したのかどうかは知らないが、似たような企画であることは確か。ただ現在刊行が予定されているのは全9巻(そのうち6巻が刊行済み)で、その点中央公論(全32巻)に比べるとチト寂しい。作家陣は、水木しげるの他、里中満智子、長谷川法世、花村えい子、黒鉄ヒロシが両方のシリーズで共通するんだが、ってことはやはり中央公論のシリーズを多分に意識したものではないかと推測できる。
 今回取り上げたのは水木しげるによる『方丈記』である。『方丈記』は、災害の記述が多いということで昨今注目を集めているが、個人的にはあまり関心がない。だがまあ水木しげる作ということで、そういう面で期待して読んだわけだ。それに水木サンは、先の戦争のとき(召集されたとき)に『方丈記』をよく読んでいたというくらい『方丈記』に入れ込んでいたらしいし。
 当然のことながらマンガ形式になっていて、水木しげるを模した人物が『方丈記』のストーリーに適宜登場し、『方丈記』の作者である鴨長明と対話したりするんで、純粋に『方丈記』をマンガ化したものではない。また、『方丈記』には記述されていない、当時の社会情勢や鴨長明自身の背景なども加えられている。だがだからといって原作の味を損ねるものではなく、結果的に『方丈記』の内容が非常にわかりやすいものになっている。そういう点で『方丈記』入門としては恰好の素材である。また、巻末に『方丈記』全文が(古文で)掲載されていて、僕はこれも読んでみたが、マンガ版を読んだ後だったこともあり、古文でありながら普通にスラスラ読めるんで大層驚いたんである。それに『方丈記』自体が意外に短いことも今回あらためて認識することになった。さらにこのマンガが『方丈記』全体を完全にカバーしていたことも(原作を読むことによって)あらためて知ったのである。というわけで、これ一冊で『方丈記』入門から読破までこなすことができ、しかもその背景まで理解することができるということで、最上級の『方丈記』ガイドブックになっているのだった。
 作画は、水木作品ということで手抜きはなく、質は高い。中央公論のシリーズに『方丈記』が入っていないことを考え合わせると、あのシリーズを補完するものと考えてもよいと思う。なお、この小学館のシリーズ、小学館のホームページで一部「試し読み」ができるようになっていて、いくつか試し読みしてみたが、花村えい子の『源氏物語』がグレードが高そうで興味を引かれた。『伊勢物語』は作品自体には興味があるが、黒鉄ヒロシのマンガがちょっと読むに堪えないという印象である。
★★★★

参考:
小学館『マンガ古典文学 全9巻』
竹林軒出張所『マンガ古典文学 源氏物語 (上)(中)(本)』
竹林軒出張所『マンガ古典文学 古事記 壱(本)』
竹林軒出張所『徒然草 マンガ日本の古典17(本)』
竹林軒出張所『今昔物語(上)(下) マンガ日本の古典8、9(本)』
竹林軒出張所『水木しげるの遠野物語(本)』
竹林軒出張所『水木しげるの泉鏡花伝(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第1巻、第3巻、第4巻(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第2巻(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』
竹林軒出張所『総員玉砕せよ!(本)』
竹林軒出張所『敗走記(本)』
竹林軒出張所『白い旗、姑娘(本)』
by chikurinken | 2013-09-27 08:19 |
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