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竹林軒出張所

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『今昔物語(上)(下) マンガ日本の古典8、9』(本)

今昔物語(上)―マンガ日本の古典 (8)
今昔物語(下)―マンガ日本の古典 (9)
水木しげる著
中央公論社

古典か? オリジナルか?
水木ワールド全開


b0189364_7294932.jpg 古典も水木サンの手にかかるとこうなってしまうという見本みたいな作である。といってもデキに問題があるというのではなく、全体に水木色が漂うというのか、まったくオリジナルの作品であるかのようなたたずまいである。収録されている話は、上巻が11本、下巻が12本で、原典の『今昔物語』に1000以上の説話が収められていることを考えると、これもスーパーダイジェストの類と言える。ただし先ほども言ったように、これは水木サンによる今昔物語の翻案である。ストーリーはそのまま使っているようだが、そこに大幅な肉付けと味付けを行い、独自の世界を構築している。さながら芥川龍之介の短編のようで、原典とはちょっと違ったテイストがある。
 元々の『今昔物語』は、ストーリーだけを簡潔に紹介したような説話が多く、奇想天外な話なんかもあってバラエティに富んでいる。だからそれをそのまま読んでもある程度楽しめるんだが、しかしこういった作品みたいに翻案すると、また別の楽しみが出てくる。特に水木センセイの場合、妖怪大好きな方であるため、『今昔物語』に入っている妖怪話や不思議な話を中心に翻案しているんだが、これがまさに水木節炸裂という趣になっている。『ゲゲゲの鬼太郎』に登場した妖怪たちも随所に使われていて、たとえば、猫嫌いであるため「ねずみ大夫」と呼ばれている登場人物はネズミ男そのままで(下巻「ねずみ大夫」)、上巻「入れ代わった魂」に出てくる死神は、水木作品常連の死神そのままである。ただし、キャラがそのままであるため、変に奇を衒ったような感じもなく、違和感はない。
 全体的にエロチックな題材が多いのも水木版『今昔物語』の特徴である。たとえば人妻に横恋慕して交接するがイチモツがなくなってしまう話だとか、旅人が大きな大根を自慰に使い射精してしまう話だとか、ま、基本的に大人向けである。子どもに『今昔物語』の世界を楽しませようと思ってこの本を与えたりすると、当初の目的と違った結果になるのは目に見えている。そういう目的で使うのであれば、『コミックストーリー 今昔物語』の方が良かろう。
 どの話も水木サンらしく丁寧に書き込まれていて、どれもグレードが高い。中には芥川龍之介が翻案した『鼻』と『藪の中』もあり、芥川版の翻案と水木版の翻案を比較するのもまたヨシである。『マンガ日本の古典』シリーズからは少々コンセプトが外れているような気もしないではないが、しかしどれも真摯に描かれており、シリーズの他の作より劣っているなどということはまったくない。なかなかの傑作と言える。
★★★★

参考:
古典のマンガ化作品
竹林軒出張所『コミックストーリー 今昔物語(本)』
竹林軒出張所『コミックストーリー 日本霊異記(本)』
竹林軒出張所『御伽草子 マンガ日本の古典21(本)』
竹林軒出張所『落窪物語 マンガ日本の古典2(本)』
竹林軒出張所『源氏物語(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『とはずがたり マンガ日本の古典13(本)』
竹林軒出張所『春色梅児誉美 マンガ日本の古典31(本)』
竹林軒出張所『平家物語(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『太平記(上)(中)(下)(本)』
竹林軒出張所『奥の細道 マンガ日本の古典25(本)』
竹林軒出張所『日本人なら知っておきたい日本文学(本)』
竹林軒出張所『セクシィ古文(本)』
水木センセイの作品
竹林軒出張所『コミック昭和史 第1巻、第3巻、第4巻(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第2巻(本)』
竹林軒出張所『コミック昭和史 第5巻、第6巻、第7巻、第8巻(本)』
竹林軒出張所『総員玉砕せよ!(本)』
竹林軒出張所『敗走記(本)』
竹林軒出張所『白い旗、姑娘(本)』
竹林軒出張所『水木しげるの遠野物語(本)』
竹林軒出張所『猫楠(本)』

by chikurinken | 2013-08-22 07:30 |
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