四角いジャングル 激突!格闘技
(1979年・東映)
監督:後藤秀司
原作:梶原一騎、中城健
脚本:真樹日佐夫
出演:(ドキュメンタリー)アントニオ猪木、ベニー・ユキーデ、藤原敏男、プライユット・シーソンポップ
昭和ちびっこ格闘技手帳
アントニオ猪木がかつて異種格闘技路線で名前を売っていた頃(1975〜80年頃)、この異種格闘技戦周辺をリアルタイムに辿るというマンガが『少年マガジン』に連載されていた。タイトルは『四角いジャングル』で、原作が梶原一騎ということから、猪木周辺のみならず、極真空手や、キックボクシング、新格闘術(梶原一騎の知人が関係)などが取り上げられていた。このマンガ、猪木対ウイリー・ウィリアムス(極真空手)戦を盛り上げる役割を大いに果たしていたんだが、実際の試合の後は、なんだか急速に下火になったような印象がある。少なくとも僕の周りの格闘技ファンの間ではそうだった。それに、このマンガでは、格闘シーンがやたらにオーバーで、特に極真系の戦いでそれが当てはまり、今考えると極真空手の広報の役割を果たしていたのかとも思える(梶原一騎は極真空手のスポークスマンみたいな役割を果たしていた)。僕なんかも極真の強さは神がかり的だと思い込んでいた時代が長く、その後、極真系の選手が他の格闘家と一戦交えた段階で初めてそれが幻想だったことに気付くという有様だった。梶原一騎のマンガに騙されたそういういたいけな少年は随分多かったようで、どうにも困ったものである。
さて、当時、この『四角いジャングル』、それなりに人気があったようで、そのためか『四角いジャングル』を原作にした映画が都合3本製作された。そのうちの第2作が今回見た『四角いジャングル 激突!格闘技』である。内容は、マンガの『四角いジャングル』に沿った形で、登場する格闘家も、それから試合もマンガとかなりの部分が共通する。当時、僕は田舎に住んでいて、キックボクシングはTBS系のものしか見れなかったため、ベニー・ユキーデも藤原敏男もプライユット・シーソンポップも映像では見たことがなかった。彼らの試合は東京12チャンネル(テレビ東京)系でしか放送されていなかったんである。マンガに登場する彼らはもうとんでもない存在で、そのためもあって見たくて見たくてしようがなかったんだが、情報格差はいかんともしがたい。この映画を見ることができればまた話は違ったんだろうが、映画館すら地元になかったんでしようがない。もっともこんな映画があったことすら最近まで知らなかったんだが。
そういうわけで、今回、感慨を持ってベニー・ユキーデと藤原敏男の勇姿を見たのであった。マンガのオーバーな描写を排除して素直な目で見ても、どちらもなかなか強く魅力的である。ユキーデはスピード、藤原敏男はボディバランスが特に優れているという感じで、両者とも格闘センスはピカイチという印象である。もっともこの映画で紹介された映像自体、彼らが活躍している試合なんで、にわかに断定することはできないのかも知れない。相手にやられている試合も見なければ本当の実力はよく分からないんだが(ちなみにユキーデにも敗戦の試合がある)、それでも魅力的であるのは変わりない。
他には、猪木対ミスターXの異種格闘技戦や、極真空手のオープントーナメントが収録されている。猪木対ミスターXなんて今見るとどうしようもないマッチアップで、しかも興業色の強い試合なんだが、当時はマンガ版『四角いジャングル』のせいでなんだか恐ろしいことが起こりそうな予感すらしたんだから、返す返すも罪作りなマンガだったと言える。極真空手のオープントーナメントは、確かに衝撃的なKOシーンもあるが、長すぎて退屈した。この映画でも随所に取り上げられた極真空手のデモンストレーション(バット折り、ビール瓶割り、氷割りなど)も確かに衝撃的だが、今見ると宣伝臭が強く、所詮デモンストレーションに過ぎないとも感じられる。これを梶原一騎のマンガが補完し、少年達のイメージを過剰に膨らませていったのが70〜80年代。まんまと広報にやられていたわけだ。そういうことをこの映画を見ながらつらつら考えたのだった。
本作の映像は寄せ集めみたいなもので、16ミリフィルムで撮ったような映像が多く、アングルもあまり良くないため、映像的にはあまり魅力がない。本当は若い頃の藤波辰巳(プロレスラー)の映像を見たかったんだが、ほんの少し出てきただけでガッカリ。この辺も原作マンガと同じで、あのマンガの映画化としてはかなりうまくやっているという印象である。
なお、あのマンガの主人公だった赤星潮だが、僕はてっきり架空の人物かと思っていたんだが、赤星潮という名前の格闘家が実際に映画に出て来たんで驚いた(後で知ったんだが、このマンガが出てから、同じ名前を付けた選手が登場したんだそうである。どういういきさつかは知らないが)。
★★★参考:
竹林軒出張所『完本 1976年のアントニオ猪木(本)』竹林軒出張所『ブッチャーとシン』竹林軒出張所『買った、見た、ふるえた……キックの鬼 最終章』竹林軒出張所『キックの鬼』竹林軒出張所『沢村忠に真空を飛ばせた男(本)』竹林軒出張所『真空飛び膝蹴りの真実 “キックの鬼”沢村忠伝説(本)』竹林軒出張所『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか(本)』竹林軒出張所『昭和ちびっこ広告手帳(本)』