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竹林軒出張所

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『精霊流し』(本)

精霊流し
さだまさし著
幻冬舎

人の死に思いを馳せる短編集

b0189364_8411986.jpg 歌手のさだまさしの処女短編集。(おそらく)どれも著者の周辺で起こった話ばかりで、私小説と言って良い。タイトルが「精霊流し」であることから、どの話も死者が出てきて、人の命について考えさせられる。
 第1話「薔薇の木」、第2話「遠雷」、第3話「身代わり」、第4話「Aマイナーのバラード」、第5話「精霊流し」、第6話「らくだやの馬」、第7話「明暗」、第8話「鬼火」、エピローグ「きみを忘れない」の8話構成。このうちさだまさしがグレープ時代に作った楽曲「精霊流し」は、第4話と重なる。また第7話は楽曲「椎の実のママへ」につながる。この小説はかつてNHKでドラマ化されたが、そのときは第2話と第4話、第7話が盛り込まれていた。小説ではそれぞれほぼ違う話として書かれているが、ドラマの方は1本にまとめられていた。この本を読むと、あのドラマ、随分うまくまとめられていたなとあらためて感心する。ちなみに脚本担当は故・市川森一であった。他でも書いたが、このドラマの後映画化もされ、映画の方はどうにもしようがないストーリーになっていてガッカリしたが、まあ脚本家の技量の差ということなんだろう(竹林軒出張所『精霊流し(映画)』を参照)。
 さてこの小説であるが、どれも非常にうまく書かれており、歌手の余技と簡単に言えないほどのデキである。さだまさしと言えば、楽曲も詩的というか文学的なものが多く、元々こういう方面の素養があったんだろうが、それにしても処女作でこれだけのものが書けるというのも大したものである。ただ、たとえば第1話のエピソードなどは、別の作品『かすていら』などにも出てくるし、先ほども書いたように楽曲で出てくるエピソードもあるので、結構あちこちで使い回しはしているようである。
 歌でもそうだが、どの話も、家族や親族への愛が痛いほど伝わってきて、それがつまりさだまさしの真骨頂である。
 個人的には第2話の「遠雷」が非常に好きで、これはドラマのときに初めて接したんだが、料理屋(主人公のバイト先)の堅気の大将が博打にはまり込む話である。なんだか空恐ろしい話なんだが、非常にリアリティがあって、おそらく著者が直接接した話なんだろうと思う。実話をベースにした話にはこういうリアルな力強さがあって、それは、作りものの話ではなかなか表現できない部分である。そしてそれが私小説の価値というものであり、そのことをあらためて思い知らされる良い短編集だった。
★★★★

参考:
竹林軒出張所『精霊流し(映画)』
竹林軒出張所『かすていら(1)〜(5)(ドラマ)』
竹林軒出張所『ちゃんぽん食べたか (1)〜(9)(ドラマ)』
竹林軒出張所『眉山(映画)』
竹林軒出張所『アントキノイノチ(映画)』
by chikurinken | 2013-08-02 08:43 |
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