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竹林軒出張所

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『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(本)

私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。
大宮冬洋著
ぱる出版

ユニクロ版『舞踏会の手帖』

b0189364_9151233.jpg ユニクロと言えば、労働条件についてあちこちで非難されたり、あるいは逆に経営方法が賞賛されたりもしているが、労働者側から見た実像というのはなかなか伝わってこない。ブラック企業などと言われることもあるユニクロだが、実際に店舗に行っても、店員に暗い雰囲気を感じるようなこともない。内部告発の本などがあればまだ理解する術もあるんだろうが……ということでこの本の登場ということになる。
 もっともこの本は内部告発の本ではない。端的に言えば、かつてユニクロ町田店(154番店)で正社員として勤務していた著者が、当時一緒に働いていた同僚を訪ねて、当時の思いやその後の人生について聞き出すというコンセプトの本で、さながらフランスの古典映画『舞踏会の手帖』みたいな趣向である。
 著者によると、当時(2000年)のユニクロ町田店は非常に雰囲気が良く、ダメ社員の著者をも包んでくれるような雰囲気があったという。この町田店はその後(ユニクロ流経営の特徴である)統廃合の憂き目に遭って2002年に閉店になり、当時のスタッフもバラバラになった。他の店舗に移った者もいるが、ほとんどは職を変えていったという。
 本書では当時のスタッフ約10人の他、当時の町田店に通っていた客などもインタビューの対象になっている。彼らの話を通じて当時のこの店の雰囲気がよく伝わってくる上、それぞれのスタッフがどういう思いでいたかも分かってくる。良い職場環境にいると辞めた後でもその時代を懐かしく感じたりするが、この本を読んでいると、そういう感情が読者側にも芽生えてくる。だが、当時の雰囲気を懐かしむという要素だけでなく、ユニクロ式経営の問題点も同時にあぶり出されているのがこの本の特色である。スタッフや職場環境を使い捨てにするような経営方法が本当に良いのか……そういう問いかけを著者は繰り返すが、これはかつて務めていた人間側からのミクロ的な発想と言える。こういった視点は経営側の利益追求の発想からは決して出てこないもので、ユニクロの経営方法を賞賛するような経済マスコミには絶対に伝えられない部分だ。
 と言っても、経営陣を一方的に批判するというようなアプローチでもないのだ。著者は、ユニクロの代表者である柳井正に労働者を疎外するような悪意がないことにも同意している。労働者側から経営者側を見るという比較的冷静な視点が、ユニクロという企業の実像を映し出すことを可能にしているのだ。どんな企業、集団にも言えるが、本当の姿というのは、外部からの非難や賞賛だけでは捉えきれないもので、内部に身を置いた者でなければわからない現実というものがある。それが見事に映し出されているのがこの本であり、それがこの本の価値を決定的にしている。
 著者による問題提示、そして良い職場を懐かしむ感情など、どれもさりげなく伝わってくるのは、著者の人柄ゆえか。またインタビュー中心であるため、大変読みやすい本になっている。ユニクロに行って、スタッフ・ウォッチングしてみたくなること必定の好著であった。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『舞踏会の手帖(映画)』
竹林軒出張所『ロスジェネ社員のいじめられ日記(本)』
竹林軒出張所『低価格時代の深層(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2013-07-27 09:15 |
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