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竹林軒出張所

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『低価格時代の深層』(ドキュメンタリー)

低価格時代の深層(2012年・仏AMIP)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

価格破壊による人間破壊と環境破壊の現場

b0189364_8124572.jpg ものの安売り競争が過当になり、値段を安くするだけでよく売れたりするのが、現代の風潮である。しかし過剰に値段を下げるとどこかでしわ寄せが来るのが世の常で、品質に問題が出たり、本来必要な環境基準が守られていなかったり、従業員が不当な条件で働かされていたりするわけだ。かつて「価格破壊」というキャッチフレーズがよく使われたが、安売り競争で実際に破壊されたのは価格水準だけではなく、製品の水準、環境や人間だったということも少しずつわかってきた。そういうこともあって、低価格競争へのアンチテーゼとして「安ければそれでいいのか」という問いもあちこちで沸き上がってきている。
 このドキュメンタリーでも、低価格競争で何が引き起こされたかをあぶり出すために、格安航空や格安スーパー、巨大養豚施設などの低価格志向の産業に接近し、その内幕をさらしている。
 たとえば格安航空の一例として紹介されているのは、アイルランドのフィンエアーという航空会社だが、内部では徹底的なコスト削減が行われている。乗務員はパイロットを含め契約社員で、時間給で働いており、しかも仕事は激務で給与も安いと来ている。客室乗務員は時間給が約20ユーロ程度で、それも乗務時間分しか支払われない。乗務の前後で必要になる打ち合わせや客の誘導などはただ働きということになる。1時間半程度の乗務の場合でも実際にはその前に1時間、その後に1時間は必ず必要になるため、3時間半の激務(!)でも30ユーロ程度にしかならない。1日何度も乗務できるわけじゃないので収入はお寒い状況になる。パイロットも似たり寄ったりで、これで安全性が担保できるのかはなはだ疑問である。
 格安スーパーは、ドイツのチェーン店が紹介される。ここも従業員は低賃金で酷使され、労働者が疎外されている状況は19世紀の話かと耳を疑うほどである。一部では「貧しい人々のための店」と言われているそうだが、実際には「貧しい人々を生み出す生産拠点」にもなっているというわけだ。
 養豚施設は、アメリカの企業がルーマニアに進出してきた例を取り上げているが、環境基準が守られておらず、周囲に汚染をまき散らしている。つまり、低価格を維持するために環境や住民への配慮を欠いた例として紹介されている。
 つまり低価格が実現可能なのは、何らかの必要な部分を切り捨てているからというのがこのドキュメンタリーの主旨である。たとえば労働条件について言えば、当然企業が払うべき社会保険料などが払われておらず、ということは結果的に税金でその分をまかなわなければならなくなるわけだ。つまりこういった産業は巧妙に税金を収益の一部にしていることになる。また、環境破壊がもたらす損失も計り知れず、いずれは行政機関が対応するのか知らんが、そのときに莫大な金額を投入せざるを得なくなるということで、住民の負担としてトータルで考えれば結局は高くつく。得をするのは一部の経営者だけということになる。
 個人的には「安ければそれでいい」という風潮は是非変わってほしいと思っているので、このドキュメンタリーの主張についても全面的に賛同するが、番組の演出方法についてはもう少し改善の余地があるかなと思った。しかしいろいろと考えさせる優良ドキュメンタリーであることは確かである。
★★★☆

参考:
竹林軒『百円ショップを巡りながらこう考えた』
竹林軒出張所『模倣品社会 〜命を脅かすコピー商品〜(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2013-07-13 08:14 | ドキュメンタリー
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