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竹林軒出張所

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『ヒマラヤのゴールドラッシュ』(ドキュメンタリー)

ヒマラヤのゴールドラッシュ 〜“冬虫夏草”を求めて〜
(2011年・仏KWANZA / 米Wind Horse Entertainment)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー

人の営みは悲しい

『ヒマラヤのゴールドラッシュ』(ドキュメンタリー)_b0189364_8221737.jpg 高度成長の中国で、冬虫夏草(とうちゅうかそう)という漢方薬がもてはやされている。不老長寿に効くということで、金持ち連中が欲しがるため、この番組によると金より高値で取り引きされているらしい。ただそれだけ価値が上がると、これを採取する方にも当然影響が出るわけで、19世紀アメリカのゴールドラッシュのような状況が起こってくる。このドキュメンタリーは、冬虫夏草の産地の1つであるヒマラヤの麓での、冬虫夏草ラッシュを追っている。
 冬虫夏草というのは、もともと地中で過ごしているコウモリガの幼虫に菌類が寄生し、やがてこの幼虫を養分として菌糸を地上まで延ばしたものを指す。冬期は虫で夏になると植物になることからこの名がついたという。日本でもときどき「冬虫夏草が体に良い」みたいな広告を目にするが、見た目は少々グロテスクである。で、この冬虫夏草がヒマラヤの中腹に自生しているのだ。そのため麓の人々は、雪解けの季節になると、山中に分け入ってこれを採取することで一攫千金を狙うということになる。おかげで元々の産業である農業も放り出され、男も女も子どもも夏の間、家を離れて山中で過ごす。地道に百姓なんかやってられるかということなんだろう。実際、麓の村にはこれで財をなした人がいるわけで、中には冬虫夏草のトレーダーになった人もいる。
『ヒマラヤのゴールドラッシュ』(ドキュメンタリー)_b0189364_823216.jpg 冬虫夏草ハンターの中には、採取した冬虫夏草や儲けた金を、ハンター同士の博打ですってしまうようなうつけ者もおり、傍から見ていると何やってんだかなと思う。冬虫夏草にしてもこんなペースで採取していれば、いずれはこの地から姿を消すのは必至で、そのときまでに十分金を貯めておかなきゃならないだろうに……とつい思ってしまう。
 もっとも彼らをよそ者が批判することはできないだろう。地道に生きることに美学を感じる人でも、現場にいれば1人だけ冷静でいつづけるなんてことも不可能だろう。冬虫夏草ラッシュに加わり、そして数少ない楽しみで財を失うのも、ある意味仕方ない面があるだろう。悲しい人間の性と言っても良い。そういう意味でもいろいろ考えさせられるドキュメンタリーだった。
 撮影クルーもヒマラヤの中腹に入り、冬虫夏草ハンター達の姿を追っていて、その苦労が忍ばれる。ヒマラヤの自然の映像をはじめ、人の営みの姿を捉えた映像が非常に美しく、映像詩としても質が高い。
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『“青い黄金”を追え!(ドキュメンタリー)』

by chikurinken | 2013-07-02 08:24 | ドキュメンタリー
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