同棲時代(1973年・TBS)
演出:竜至政美
原作:上村一夫
脚本:山田太一
出演:梶芽衣子、沢田研二、萩原健一(友情出演)、仲谷昇、初井言栄
「幻のドラマ」は幻のまま封印した方が良かったかも 1970年代前半は、テレビドラマがカラー化されはじめた時期だが、この頃のドラマは映像が残っていないことが多いらしい。なんでも当時カラービデオテープが高価だったせいで、放送が終わった時点で撮影に使ったビデオテープを再利用して、他のテレビ番組に流用していたためなんだそうだ。この『同棲時代』もご多分に漏れず、少なくともTBSには放送映像が残っておらず、一部で「幻のドラマ」と言われていたらしい。
ところが数年前、双葉社(原作の劇画版『同棲時代』の出版社)の倉庫から、当時放送された映像の録画テープが見つかった。見つかったテープはカラー2本、モノクロ3本の5本で、すべてテレビで放送された映像を録画したものである。当時は家庭用ビデオが普及していない時代で、相当マニアックな人が何らかの機材を調達して録画して残したんではないかと思われる。ビデオテープはUマチックという、今となっては珍しい規格のものであったため、発見者はこのUマチックテープの中身を確認することができず、TBSに持ち込まれることになった。こうして「幻のドラマ」『同棲時代』が新たに日の目を見ることになったのである。
残念ながらカラー版は冒頭部分と途中が切れており完全版とは言えないが、モノクロテープにその欠落部分が収められていた。ということで、この2種類のテープをつなぎ合わせることで1本のドラマ映像として復活したというのが今回の放送映像である。これがTBSチャンネルというCSチャンネルでこのたび放送され、あわせて
『幻のドラマ「同棲時代」発見秘話』という30分の紹介番組も放送された。上に書いたネタはすべてこれがネタ元である。
劇画版の『同棲時代』は当時大ヒットして「同棲時代」という言葉は社会に浸透していた。当時小学生だった僕でさえ知っていたほどである。映画化もされ、主演は由美かおると仲雅美で、大信田礼子が歌った同名タイトルの歌もそこそこヒットした。なんといっても、由美かおるのセミヌードがのっていた映画のポスターが刺激的で、そのポスターの前を通り過ぎる小学生は照れくさいやら見てみたいやらで大変だった。ドラマ版もあったということは薄々知っていたがジュリーと梶芽衣子が主演というのは今回初めて知ったのだった。梶芽衣子は当時、東映で『修羅雪姫』とか
『さそり』とかで強くすさまじい女を演じていた頃で、このドラマの登場人物、今日子とは大きなギャップがある。それに脚本は山田太一だという。これは是非見なければ……ということで今回わざわざTBSチャンネル2を導入したのだった。
こうしていよいよこの「幻のドラマ」を目にすることになったんだが、内容は正直まったく期待外れというか、まあこんなもんだろうとは思うが、どうってことのない作品だった。若い男女が出会って恋をして一緒に住み出すというそれだけの話で、途中イチャイチャしたり喧嘩したり、別れを切り出したりが入る。伝わってくるようなものもあまりなかった。同じような題材の林静一のマンガ『赤色エレジー』はいろいろ感じるところもあったんだが、少なくともこのドラマにはそういうものはなかった。脚本も特に特色があるわけでもなく、サブプロットもないし、セリフも面白味がない。山田太一の色はまったくない。普通のOLを演じた若い梶芽衣子が魅力的だったが、それ以上の魅力は僕にとってはなかった。当時の若い女性にとっては沢田研二が魅力的だったのかも知れないが、それを思うとアイドルドラマのレベルとも言える。率直に言うと『幻のドラマ「同棲時代」発見秘話』の方が内容的にははるかに面白かったんである。
この『幻のドラマ「同棲時代」発見秘話』には梶芽衣子本人も出ていて、当時のエピソードを語っていた。それによるとこのドラマの撮影時、東京・上野毛のロケーションで映画版の撮影隊とかち合ってしまったらしく、双方のロケ隊の間で「終わりましたんで、あとどうぞおつかいください」みたいなやりとりがあったらしい。そういうわけで映画版とドラマ版、同日のほぼ同時刻に同じ場所が撮影されているということになる。ドラマ自体よりそういう話の方が面白いというのもちょっと考えものではある。
★★☆追記:研ナオコ、湯原昌幸、山本コウタローらが冒頭、おそらくゲスト扱いだろうがエキストラで出演している。また、萩原健一も友情出演ということで、主人公の友達役で登場する。この間読んだ宮脇康之の
『ケンちゃんの101回信じてよかった』によると、ジュリーとショーケンは仲が悪かったらしいが、本当のところはどうなんだかよくわからない。
参考:
竹林軒出張所『女囚701号 さそり(映画)』竹林軒出張所『「快刀乱麻」を聴く』 竹林軒出張所『ケンちゃんの101回信じてよかった(本)』竹林軒出張所『蜃気楼博士 (1)〜(12)(ドラマ)』