午後の旅立ち(山田太一作品集5)
山田太一著
大和書房
脚本で山田ドラマにアプローチ 1981年1月からテレビ朝日系で放送されたドラマ(全14回)のシナリオ本。放送時はほとんど見ていないが長年気になっていたドラマで、しかも今後も再放送されそうにないので、シナリオを読んだ。
ドラマについて紹介すると、タイトルの『午後の旅立ち』から推測できるように、リチャード・クレイダーマンの同名タイトルがテーマ曲になっている。第10回と第11回にクレイダーマンが本人役で出演していて発表時期も重なることから推測すると、このドラマのために作られた曲ではないかと思われる。キャストは、若尾文子、藤田まこと、三浦友和、星野知子、津島恵子、津川雅彦、柳生博、藤原釜足らで、航空機事故をきっかけに動揺するパイロット家族の話である。サブプロットとして登場するのが記者(三浦友和)の親子関係で、他にも『二人の世界』を彷彿させるようなスナック(というより喫茶店)の経営話も少しだけ入ってくる。
ドラマ自体は、著者が「あとがき」で「スタッフ、キャストとの相性があまりよくなかった」と書いているように、あまりヒットしなかったと記憶している。そもそもテレビ朝日で山田太一作品が放送されること自体割合少なかった。あるいは藤田まことというキャスティングが(『必殺』で人気の藤田まことであることを考えると)テレビ朝日サイドから提案されたのかも知れない。いずれにしても山田ドラマとしては珍しいキャスティングであるのは確かである。一方で「この作品については思いが少し深い」らしく、本人としては思い入れがある作品のようでもある。
だが実際読んでみると、感じるところの少ないホームドラマであるというような印象を受ける。確かに夫婦の別居というテーマへのアプローチは真摯で興味深いが、全体的になんとなく散漫で、ちょっと気合いが空回りという雰囲気がなきにしもあらずである。津島恵子が演じる女性の息子コンプレックスはすさまじいが、こういう終わり方にするのもちょっと強引な気がする。とは言え、視聴者の興味をグイグイ引きつける展開は山田太一の面目躍如で、8ポイント2段組で300ページを超えるシナリオではあるが、一気に読み終えてしまった。総じて、面白いには面白いが、多少物足りなさが残るといったイメージである。
なお今回読んだのは大和書房の『山田太一作品集』の1冊で、このシリーズは現在絶版中である。僕はかつて古本屋でこのシリーズを何冊か買いこんでおり、今回読んだ本はその1冊である。古本は割合出回っているようなので、興味のある方はそちらを購入されるか、図書館にあたってみていただきたい。先ほども書いたが再放送は期待できない。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『幸福駅周辺・上野駅周辺(本)』竹林軒出張所『空也上人がいた(本)』竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』竹林軒出張所『100年インタビュー 脚本家 山田太一(ドキュメンタリー)』