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竹林軒出張所

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『インサイド・ジョブ』(映画)

インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実(2010年・米)
監督:チャールズ・ファーガソン
脚本:チャールズ・ファーガソン、チャド・ベック、アダム・ボルト
出演:マット・デイモン(ナレーション)

b0189364_8475880.jpg現代ネズミ講概論

 2008年にアメリカで起こり世界に不況をまき散らしたリーマン・ショックについてのドキュメンタリー映画。リーマン・ショックはバブル破綻だったという前提で、その原因、過程を明らかにする。
 ことはレーガン政権時代の規制緩和政策にまで遡る。この政策により金融業界が勢力を伸張し、政治にも影響力を持つようになったのがことの始まり。その後吸収合併を繰り返すことでそれぞれの金融資本が巨大化し、1999年には、金融産業に対する規制の最後の砦、グラス・スティーガル法まで(金融産業の画策で)撤廃されることになった。こうして金融産業はやりたい放題ができるようになり、怪しげな金融商品にまで手を染めるようになった。そしてその際に有効活用されたのが経済学者で、かれらのいわゆる金融工学が存分に利用されることになる。また、格付け会社も金融産業と結託して、こういった金融商品にお墨付きを与える役割を果たした。悪名高いサブプライムローンもこうした金融商品の1つ。このようないきさつで、さまざまな業種が集まった一大金融帝国がアメリカに誕生し、市民の富を吸収するシステムを作り出すことになった。
 こういった金融商品はもともと価値のないものに価値をつけて値をつり上げているわけで、当然のごとくこれがバブルを引き起こす。実態は巨大なネズミ講であって、ネズミ講はいつか必ず破綻する。そうして起こったのがリーマン・ショックだというのが、このドキュメンタリーで描かれる世界である。
 で、これを引き起こした連中が、当時何をして今どうしているかというのは1市民としては気になるところで、その辺がこの映画の軸になっている。驚いたことに、リーマン・ショックの原因を作った人々というのは例外なく大変な金額を懐に入れて、罰せられることもなく現在もぬくぬくと暮らしているのだ。当時政治の中枢にいて金融機関に対する規制を撤廃した人々は金融産業に天下りしているし、金融機関のトップとしてこのバブルで踊った人々は、売り抜けしたり保険を利用したりしてリーマン破綻時および破綻後に莫大な金を受け取っている。ともかくこういった人々は、非常に大きな富を手にしていて、アメリカの政治に対してもますます大きな影響力を行使できるようになっているため、政府当局が彼らを糾弾したり罰したりすることもできなくなっている。まさにモラル・ハザードである。
 実はリーマン・ショック以前にも、アメリカではITバブルをはじめ何度かバブルが発生し、その都度破綻してアメリカ経済を混乱させていて、それに懲りることもなくリーマン・ショックを引き起こしたというのがアメリカ経済の現状である。リーマン・ショック後、社会に悔悟の念があふれたかにも思えたが、実際金融資本に歯止めをかけることは行われていない。ほとぼりが冷めたらまた同じことが繰り返されるのは目に見えている。そのためにも当事者を糾弾することは必要で、原因も究明しなければならないというのがこの映画の主張である。
 映画は正攻法なドキュメンタリーで、当事者へのインタビューを中心に編集することで構成している。内容はしっかりしているが、途中わかりにくい箇所が非常に多い。原語で聞ければまだマシなのかも知れないが、字幕だけで内容を100%理解することは少々難しい。それに登場する人物を紹介する字幕と、話される内容の字幕が同時に出たりして、こういうことも混乱の原因になっている。正直言うと、分かりやすさで言うとNHKで再三放送されたこの種のドキュメンタリーの方が上であると思う。少なくとも日本人には。
 ましかし、分かりにくいとは言え、当事者達の映像がふんだんに出てきて、その多くは実際にインタビューに答えているわけで、どの人間がどういうふうにこのネズミ講に関わっていたか知ることができるし、それに映像を駆使して説明されるので、全体像を掴む上では恰好の素材と言えるかも知れない。
第83回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門受賞
★★★☆

参考:
『マネー資本主義第4回(ドキュメンタリー)』
『資本主義崩壊の首謀者たち(本)』
『悪夢のサイクル(本)』
『金融が乗っ取る世界経済 21世紀の憂鬱(本)』
『パーク・アベニュー 格差社会アメリカ(ドキュメンタリー)』
by chikurinken | 2013-05-04 08:49 | 映画
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