冬構え(1985年・NHK)
演出:深町幸男
脚本:山田太一
音楽:毛利蔵人
出演:笠智衆、岸本加世子、金田賢一、藤原釜足、小沢栄太郎、沢村貞子、せんだみつお
シビアなテーマが目にしみる 「老い」を扱った80年代山田ドラマの第二弾。この主人公(笠智衆)は『ながらえば』ほどみじめな老人ではなく、どちらかというと小津安二郎の映画に出てくる主人公のような上品さを持つ。だがその内面は実は……という話である。
老いに直面した老人が、それについて自分の中でどうやってケリをつけるかがテーマであるが、あまりにも厳しいテーマが突きつけられるため、見終わった後はかなりヘビィな気分になる。僕自身が若い頃、この主人公みたいな潔い行動を取ろうと思っていたので、余計身につまされる。このテーマをテレビドラマでやるというのも今考えるとすごい。ただ非常に日常的なテーマであることを考えると、逆にテレビならではと言えるかも知れない。ちょっと参った。
最近の山田太一は「老い」をテーマとして書いているが、このドラマのような悲観性はない。
『ご老人は謎だらけ』という本に、人間年を取ると非常に楽観的になるというような記述があったが、最近の山田ドラマは「老い」に対して非常に楽観的である。実際に当事者になってみるとさすがに「老い」についてこのドラマほどネガティブに捉えることはないということなんだろう。それを考えると、この頃のドラマは、「老い」に対してかなり意地悪な見方をしているとも言える。
出演は、これまたうまい人ばかりをよく集めたなというラインアップで、特に岸本加世子はこの登場人物にぴったりはまっている。おそらく山田太一は岸本加世子のことを念頭に置いてこのシナリオを書いたんじゃないかと思う。藤原釜足、小沢栄太郎はもちろん言うまでもなく、金田賢一もいい味出している。ただ、沢村貞子のエピソードは本当に必要だったか少々疑問である。
この『冬構え』と、少し前に紹介した
『今朝の秋』、
『ながらえば』の3本が、笠智衆主演の「老い」を扱った80年代の作品で、いわば「老い」三部作と言える作品群である。放送されたのは『ながらえば』(82年)、『冬構え』(85年)、『今朝の秋』(87年)の順である。この3本とも同じ登場人物であってもおかしくない(つまり3作を通じて、この年代順に同じ登場人物が年を経たと考えるられる)ような、まとまりの良さが3本を通じてある。この3本、おそらく日本のテレビドラマの最高到達点と言えるような作品群で、こういったドラマをたて続けに出し続けた山田太一と当時のNHKの豪腕ぶりは、今のうすら寂しいドラマ事情を考えるとすごいものがあると思う。
第22回プラハ国際テレビ祭最優秀演出賞受賞、第25回日本テレビ技術賞受賞
★★★★参考:
竹林軒出張所『ながらえば(ドラマ)』竹林軒出張所『今朝の秋(ドラマ)』竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』竹林軒出張所『秋の駅(ドラマ)』竹林軒出張所『春までの祭(ドラマ)』