いじめの果てに 〜少女フィービー・プリンスの悲劇〜
(2010年・アイルランドTV3Productions)
NHK-BS1 BS世界のドキュメンタリー シリーズ「教育現場は今」
アメリカ発のいじめ事件
日本の学校でたびたびいじめが問題になっていて犠牲者も出ているのはご承知の通り。なかなか簡単には解決できない難しい問題で、せめて身内の者にはいじめに加担する側にもいじめ被害を受ける側にも回ってほしくないと願うことくらいしかできないのが現状である。とは言え、犠牲者が出るたびに、当事者の学校や教師、自治体に対して世間から強い突き上げが起き(多くは非常に身勝手で利己的な主張であるが)、教育現場では少しずつ改善が進んでいるという状況ではないかと思う(以前は今以上にひどかったという印象である)。それでもなかなかいじめの根絶に至ることはないもので、そういう状況について日本の一部の有識者やマスコミ関係者がかつて、いじめは日本特有のもので、アメリカやヨーロッパにはないなどとしたり顔で語っていたことが思い出される。
しかし実際のところは、どこの国でも状況は大して変わらず、いじめは存在し続ける。この『BS世界のドキュメンタリー』でもたびたび海外のいじめ問題のドキュメンタリーが放送されてきたが、今回放送されたのは、2010年にアメリカのマサチューセッツ州で起こった「いじめの果ての自殺」事件についてのもの。
アイルランドからアメリカの高校に転入したフィービー・プリンスは、聡明で明るく、前の学校ではむしろ人気を集めていた生徒だった。アメリカの高校への転校後、学校で非常に人気のある男子生徒2人とつきあい別れたことから、その男子生徒のファン・グループの女子生徒から執拗ないじめを受けるようになる。嫌がらせや脅迫、果てには執拗なストーカー行為が数人の女子生徒によって繰り返され、ついにフィービーは自宅で首つり自殺をしてしまう。学校当局はしばらくの間いじめの存在を公表せず、いじめの加害者生徒も処罰されることはなかったが、ある地元新聞がこの事件を問題視したことから、全米から学校に対して批判が繰り返されるようになり、学校側もようやく重い腰を上げる。一方で捜査当局も動きだし、加害者生徒が刑事告発されることになった。
このドキュメンタリーではこの事件の顛末が順を追って語られるんだが、その図式は日本で起こる事件とまったく変わらない。そして日本と同様、マサチューセッツ州でも事後処理的に対策がとられていくことになる。なんでもいじめに対する刑事罰を規定した法律ができたということで、これもかつて日本でさまざまな議論を巻き起こした「少年犯罪の厳罰化」を想起させる。つまるところいじめは世界共通であり、要は学校、社会がそれに対して適切な対策をとらなければいつまでも被害者が出続けるということなんである。
個人的には、どんな対策を施したところで子供の(大人もだが)いじめ自体がなくなることはないのだから、何よりも学校環境の風通しを良くして、いじめがエスカレートする前に露見するようにし、周囲の人間をできる限り多くその「事件」に巻き込むようにするのが対策の第一歩ではないかと思っている。難しいかも知れないが、やりようによっては一番簡単な方策ではないかとも思う。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『カナダ いじめ撲滅プロジェクトの1年(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『追いつめられて アメリカ いじめの実態(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『いじめを語ろう カナダ ある学校の試み(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『いじめを生む教室(本)』