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竹林軒出張所

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『烏城物語』(本)

烏城物語
森安なおや著
漫画家・森安なおやを岡山に呼ぶ会

あの森安なおやの遺作

『烏城物語』(本)_b0189364_20275210.jpg 大変珍しい「森安なおや」のマンガ。森安なおや、ご存知だろうか? かつて数々の有名漫画家を輩出した東京・椎名町の「トキワ荘」に、藤子不二雄や石森章太郎らと同時期に住んでいた漫画家である。無頼などと言われることもあるが、要は人(他のマンガ家)から金を借りて踏み倒したり、せっかく紹介してもらったマンガの仕事も結局やらなかったりで、温厚だと言われていた寺田ヒロオ氏から「新漫画党」除名宣告を受けたほどの変わり者である。僕の中では、ものすごくいい加減で迷惑な存在というイメージがあり、「森安」という名前を聞くといつも俳優の森川正太を思い出すんだが、これはテレビ・ドラマ『まんが道 青春編』の影響である。
 森安なおやの人となりは、『まんが道』をはじめさまざまなトキワ荘関連本などで紹介されているため割に知っているが、実は彼のマンガは一度も読んだことがなかった。実際、トキワ荘時代以降はあまりマンガも描いていなかったようだが、森安の昔の同級生が彼のマンガを自費出版したという話を最近知って、このたびその本を入手したというわけ。実はこの本、最初に出版されたのは1997年で、そのときは即完売だったそうな。今回第2刷が出ることになって、それが僕のところにも回ってきた。
 話は、岡山に住む少年の話で、時代背景は戦前(なお、森安なおやは岡山出身)。少年の成長がテーマで、周りの大人たちの魅力も描かれる。本書の「森安なおやプロフィール」に「永島慎二の詩の世界に魅かれ」と書かれていたが、永島慎二みたいな味わいもある……かな(ちなみに永島慎二もトキワ荘に出入りしていたことがあるらしい)。絵は、書きなぐったようなタッチだが、背景まで割合丁寧に仕上がっていて独特の世界になっている。ストーリーも一編の詩のようでなかなか良いんだが、しかし途中、何を描いているのかわからない部分がところどころある。コマの繋がりがどうなっているのか判断できないというか、とにかく説明が十分でないため、よくわからないんである。セリフが少なくて詩的な部分を強調しているのはわかるし、回想形式を取り入れたりしていて意欲的なんだが、肝心の骨子となるストーリーがところどころ泳いでいってしまう。この点は非常に残念なところで、慣れたマンガ編集者がいれば、ネームの段階で直させるんだろうが、自費出版ゆえ致し方ない部分なのか(ただし森安氏の性格から考えるとそういう編集者とは仕事をしないことも十分考えられる)。そういうわけで完成度はやや低い。だが、世界観や絵を楽しむ分には十分で、それなりの味わいはある。なんと言っても森安なおやがこれだけのものを残したということが良いじゃないか……。実はこの本が出た後、1999年に同氏は急逝している。したがって『烏城物語』は最後の完成作ということになる(他に絶筆となった作品もあるようだ)。なお、本書には「烏城物語」の他に「小さな河の水映り」も収録している。
★★★

参考:
竹林軒出張所『まんが トキワ荘物語(本)』
竹林軒出張所『まんが道 (1)、(2)(ドラマ)』
竹林軒出張所『まんが道 (3)〜(15)(ドラマ)』
竹林軒出張所『まんが道 青春編 (1)〜(15)(ドラマ)』

by chikurinken | 2013-02-18 08:27 |
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