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竹林軒出張所

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『それぞれの秋』(1)-(15)(ドラマ)

それぞれの秋(1973年・TBS、木下恵介プロダクション)
演出:井下靖央、阿部祐三
脚本:山田太一
出演:小林桂樹、小倉一郎、久我美子、林隆三、高沢順子、火野正平、桃井かおり

『それぞれの秋』(1)-(15)(ドラマ)_b0189364_8352088.jpg 山田太一の出世作と言われているドラマ。いわゆるホームドラマで、例によって平凡な家族の中に起こるちょっとした波乱を描く。
 サラリーマンの父、主婦の母、サラリーマンの兄、高校生の妹、そして主人公という5人家族で、主人公は温和で小心かつ消極的な大学生。小倉一郎が演じる。序盤は、妹が不良グループとつきあっていることに心を痛める兄という構図で、家族がそれぞれ勝手な行動をしバラバラでいることを気に病むという展開。だが、今の感覚から行くと家族観に少し温度差があってなんとなくなじめない。家族同士の関わり合い方というのが今の感覚からすると緊密すぎて、提示された問題意識が問題として感じられない。むしろ、主人公が気に病んでいる「現状」ですら、家族同士のお節介が過ぎるようにすら見えてくる。
 最初の方は特に大きな問題も無く、家族関係だとか妹が関わる不良グループとの関係だとかに主人公が悩むというような展開で、かなりもの足りない印象である。そんなわけで第6話までは数年前に見ていたのだが、そこで飽きて中断していた。今回、機会があって第7話以降を見ることになったが、実はここから少しずつ話が展開していき面白くなっていく。
 父が脳腫瘍を患っていることがわかり、入院、家族崩壊の危機、家族の結束というふうに話が動く。脳腫瘍のために、父の人格が変わって、やけに攻撃的・本能的(看護師にセクハラまがいの行為までする)になっていき、家族は心配するやらオロオロするやらでてんてこ舞いになる。このあたりは実に面白く、序盤の退屈が嘘のよう。で、最終的に家族との適切な距離感みたいなものがぼんやりとわかってくるという話である。いかにも70年代のホームドラマという話で、大きな社会問題が扱われるわけでもなく、扱われるのはただただ家庭内の問題になる。だが、個人レベルで見ればそれが最大の問題になったりもするわけで、見ている側はそれに共感したり反発を覚えたりする。そしてそれこそがホームドラマの存在価値になる。社会派ドラマのような派手さはないが、心情がうまく描けていけば立派な作品になるというのがホームドラマである。後の山田太一作品と比較すると多少もの足りなさは残るが、それでもデキの良いドラマであることには変わりない。
『それぞれの秋』(1)-(15)(ドラマ)_b0189364_8355615.jpg キャストはどれも好演だが、中でも複数の人格を巧みに描き分けた小林桂樹は見事。小心ものの小倉一郎やコミカルな親友の火野正平も存在感抜群であった。また、後にアイドル歌手として活躍する伊藤つかさ(伊藤司)が子役として出ていたのも僕にとっては新発見だった。
 ちなみにこのドラマ、木下恵介がテレビに進出して製作した『木下恵介劇場』、『木下恵介アワー』の延長線上のドラマであり、製作は木下恵介である。山田太一が起用されたのも、松竹時代に木下恵介の助監督を務めていたためといういきさつがある。音楽も木下映画、木下ドラマの常連、木下忠司。例によって『水戸黄門』を彷彿とさせる音楽が登場するが、同時にいかにもホームドラマという音楽も多い。おそらく木下忠司の音楽が、僕の中のドラマ音楽のスタンダードになっているんではないかと思う。そう考えると木下忠司の影響力というのは大きい。
 今回、木下恵介生誕百年ということで、このドラマもDVDで復刻されるという。何にしてもほとんど「マボロシ」化していたソフトが日の目を見るというのは喜ばしいことだ。
第6回テレビ大賞本賞、第11回ギャラクシー賞受賞
★★★☆

参考:
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』
竹林軒出張所『3人家族と二人の世界(ドラマ)』
竹林軒『遙かなり 木下恵介アワー』
竹林軒出張所『赤ひげ (19)(ドラマ)』
竹林軒出張所『悪妻行進曲(ドラマ)』
竹林軒出張所『藍川由美 木下忠司作品集(CD)』
竹林軒出張所『ちびっ子レミと名犬カピ(映画)』

by chikurinken | 2012-11-27 08:37 | ドラマ
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