山田太一が脚本を書いたドラマは名作揃いだが、特に古い作品は、なかなか見る機会がない。それでも最近になってちらほらとDVD化されるものが出てきている。
なんでも
松竹が木下恵介生誕100年を記念して木下恵介が関わった映画やテレビ・ドラマをDVD化するということで、山田太一のドラマ『3人家族』と『二人の世界』もDVD化されることになった。この2本のドラマは40年以上も前に『木下恵介アワー』としてTBS系列で放送されたもので、僕は2005年にCSのホームドラマチャンネルで放送されたときに見たんだが、めったに見る機会がなかったドラマである。そのあたりのいきさつは、
竹林軒『遙かなり 木下恵介アワー』で書いているので、関心のある向きはそちらへ。それにしても最近のホームドラマチャンネルのラインアップはひどいもので、ほとんど昔日の面影はない。松竹がやっているチャンネルのようだが、哲学が感じられないプログラム構成は、本家松竹と同様である。それはさておき、僕自身はそのときに両方のドラマを全回通しで見て非常に感心し、また前のブログでも感想を書いているので、
昨日の山田太一関連ということで今回も再録しようと思う。興味を持った方は、レンタルなどでどうぞ。さすがにDVDを買うとなると高い。
(2005年12月15日の記事より)
3人家族(1)〜(26)(1968年・TBS)
演出:川頭義郎他
脚本:山田太一
出演:竹脇無我、栗原小巻、あおい輝彦、沢田雅美、三島雅夫、賀原夏子、中谷一郎、菅井きん
懐かしのドラマ『3人家族』が再放送されたので、全編通して見てみた。
なんせ40年近く前のドラマで、放送時、僕はまだ幼児だったので、まったく記憶にない。同じ『木下恵介アワー』で、この後、似たキャスティングで放送された『二人の世界』はわずかに憶えている。
山田太一が単独で書いた長編ドラマ第1号らしいが、新人とは思えないほどよくまとまっている。話自体は大した起伏もないホームドラマなのだが、見るときに緊張感を強いられることがない、ほのぼのしたドラマで、やたらくだらない大事件が起こる最近のドラマよりも新鮮で面白い。出てくる人もおおむね善良である。予定調和な感もなきにしもあらずだが、今でも、こういった楽しく優しいエンタテイメントがあっても良いんじゃないかと思う。
竹脇無我がクールな会社人間を好演している。あおい輝彦は善良な受験生、栗原小巻は清純で華麗なOLというふうに、それぞれの登場人物で性格の描きわけがはっきりしていて、親近感を感じる。今風に言うなら「キャラがたっている」ということか。最終回の終わりの方で、ほとんどの主要登場人物が一堂に会する場面があり、山田ドラマはこのころから大団円で終わっていたんだなあとあらためて感心した。
★★★☆(2006年1月18日の記事より)
二人の世界(1)〜(26)(1970年・TBS)
演出:木下恵介、川頭義郎
脚本:山田太一
出演:竹脇無我、栗原小巻、あおい輝彦、山内明、東野孝彦、三島雅夫、小坂一也、矢島正明(語り)
竹脇無我演じる二郎と栗原小巻演じる麗子が偶然街で出会い、恋に落ちて、やがて結婚する。
この辺は、『3人家族』(脚本:山田太一)の延長線上だ。キャストも、竹脇無我、栗原小巻、あおい輝彦と、両方で共通している。(昔のうっすらとした記憶から)そういう恋愛ドラマがずっと続くのだとばかり思っていたが、何とこのあたりのエピソードは、最初の数回で終わってしまった。
では結婚の苦労話かと思ったら、それも中盤で終わり、最終的には脱サラしてスナック(現在の喫茶店みたいなもの)を開店し、経営していくという話になっていった。
このように、このドラマは、「結婚前」、「結婚直後」、「その後」というふうに大きく3つに別れているが、平たく言うと、ある夫婦の奮闘記であり、その結婚当初の歴史をたどるドラマということになるのだろう。
「結婚前」は、なかなかよくできた恋愛ドラマで、『3人家族』を発展させたものという印象である。出会いなども『3人家族』のときよりリアルで意外性があった。
「結婚直後」で、二郎が脱サラを決意するあたりは、作者、山田太一の経験が大きく反映されているようで、非常に説得力がある。脱サラ経験者の僕も納得である。
そして、「その後」がこのドラマのメインであり、経営話に落ち着く。でまあこれが面白いのだ。しょせん架空の開店話なんか……という感じもあるが、自分が直接かかわっているような臨場感があり、難題も適当に(次から次へではなく)出てきて、リアリティがある。けんかしたり協力したりしながら、周囲の人々の温かい支援に励まされ感謝する。なかなか良い話である。悪人があまり出てこないのも良い。
この最後の店舗経営話を独立させ発展させて1本にしたのが、この後の『高原へいらっしゃい』(脚本:山田太一)ということになるのだろう。山田太一の昔のドラマを見ていると、その後の山田ドラマのいろいろな要素が出てきて、たぶんあそこにつながっているのだろうという発見があり面白い。他の初期の山田ドラマ(『たんとんとん』、『あこがれ』など)には孤児院出身者が出てくるが、この辺は『記念樹』が下敷きになっているのだろうと思われる。
正直、序盤から中盤にかけては起伏のない退屈なドラマだと思っていたのだが、見ている側を最終的に引き込んでいく手腕は、毎度ながら感心させられる。矢島正明のナレーションは、今となってはいささか古くささが漂うが、これも時代だと割り切れば別段気にならない。
★★★★参考:
竹林軒出張所『山田太一のドラマ、5本』竹林軒出張所『続・山田太一のドラマ、5本』竹林軒出張所『3人家族 (1)〜(13)(ドラマ)』竹林軒出張所『二人の世界 (1)〜(26)(ドラマ)』竹林軒出張所『兄弟 (1)、(2)(ドラマ)』