日本プラモデル興亡史 わたしの模型人生
井田博著
文春ネスコ
著者は、長年模型店を営みながら、その後、さまざまな模型イベントを開催したり、模型雑誌『モデルアート』を創刊したりと日本の近代模型史を間近で見てきた人。同時に模型業界とも深く関わっており、プラモデル史を語らせたらもっとも適任と言っていい人かも知れない。本書は、もちろんタイトル通り日本の戦後プラモデル史を語っているが、同時に著者の自分史にもなっていて、どちらかというと後者に比重がおかれている。
著者は、戦前から模型に魅せられ、それが高じて模型屋を自分で始めるまでになる。途中徴兵されるが、戦後も模型屋を再興し、やがてデパートに出店するようになって、昭和33年のプラモデルの登場を迎えることになる。その後、スロットカー、サンダーバード、ミニ四駆、ガンダムなど、プラモデルのさまざまな流行も、店のオーナーとして間近で経験していく。で、この本ではそういうことが紹介されていくのだが、いろいろな出来事が時系列で書かれるんではなく、結構前後しているので少しわかりにくい面もある。まあそれでも、どこかのメーカーに偏るんではなく、全体を俯瞰できる(消費者に近い)立場で書かれているため、価値はそれなりに高いと思う。先日紹介した
『田宮模型の仕事』や
『マルサン ― ブルマァクの仕事』と重複するような記述も多いが(どちらも「参考文献」リストに入っていた)、それに消費者側からの視点が加わって前二著と違った視点が非常に興味深いところである。『日本プラモデル興亡史』というタイトルは、やや羊頭狗肉っぽいが。
昭和40年代から消費者としてプラモデルに関わってきた僕としては、あちこち懐かしいグッズが出てきて感動もひとしおだったことも付け加えておかなければならない。なお、この本は2003年に刊行されたものだが、著者は2006年にすでに鬼籍に入っている。
★★★参考:
竹林軒出張所『田宮模型の仕事(本)』竹林軒出張所『日本プラモデル六〇年史(本)』竹林軒出張所『マルサン ― ブルマァクの仕事(本)』