五重塔はなぜ倒れないか
(2008年・日映企画)
ドキュメンタリー(DVD)
古建築を扱った文化映画。「五重塔はなぜ倒れないか」というタイトルが良い。だが実は同じタイトルの本がすでに存在する。本の方は読んでないので、内容が重なっているのか、あるいはDVDが本を補足するような内容になっているのか、そういうことはわかならないが、その本の編者である上田篤がこのDVDに関わっているわけでもなさそうで、両者の関係はよくわからないままである。
さてこのドキュメンタリーだが、五重塔をはじめとする古建築の塔が歴史上地震によって倒壊したことがない(そういう記録がない)ということがまず紹介される。これまで塔が崩壊したのはすべて、落雷や戦乱、火災のためである。実際、昭和32年に東京・谷中の五重塔が焼け落ちたときのニュース映像も紹介されているが、これは放火だということだ(焼け落ちる五重塔はなかなかの迫力)。関東大震災でも上野・寛永寺の五重塔は健在だったし、法隆寺の五重塔についても何度も大地震に見舞われたという記録が残っているらしいが、それでも倒壊したことはない。
その五重塔であるが、元々は釈迦の仏舎利を収めていたインドのストゥーパが源流で、その後中央アジア、中国、朝鮮を経由して、日本に伝わり、今見られるような形で定着した。こういった塔は、五層のものだけでなく、三重、七重、九重といったものもあり、十三重塔(談山神社)というものまである。
こういうことが前半で紹介され、後半はいよいよ、このドキュメンタリーの核心、地震で崩壊したことがないという塔の内部構造に迫る。
まず宮大工の宮崎忠仍氏が実際に五重塔の1/5模型を作るところが映像で紹介され、模型を使って塔の構造を紹介していく。部材が示され、木組みが映像で紹介されるため、塔の構造については感覚的にわかるようになっている。で、こうして作った塔の模型を今度は耐震実験に使い、実際に震度6の強度で揺らしてみるのである。このとき塔の揺れがどうなるかを映像に残し、それを基に「五重塔はなぜ倒れないか」を解明していくというのがこのドキュメンタリーの主旨である。
結論を言うと、木組み構造のために塔の各層が別々の方向に揺れるようになっており、しかも心柱(塔の真ん中に通っている巨大な柱)もそれと関係なく揺れるため、全体でバランスが保てる構造になっているということらしい。だが正直「なんとなく」でしかわからない。実はこれ、1/5模型を使って塔の構造を紹介する場面にも通じるもので、何となくわかった気になってしまうというのがこのドキュメンタリーの特徴である。
おそらく、この耐震実験(そしてその実験に使った塔の模型の製作)の記録のために撮影された映像を、記録映画として残しておくのが目的で作られたドキュメンタリーではないかと察するが、約35分と上映時間も短く、それにいろいろな要素を詰め込んでいるため、すべてがよーく分かったというわけにはなかなかいかない。結局のところ五重塔入門編みたいなところで終わってしまっている。ここらあたりが残念な部分。
「五重塔はなぜ倒れないか」という命題に明確に答えることはできていないが、塔建築入門編として、それから記録映像として、なかなか貴重な映像に仕上がっているとは思う。また映画の密度が高いので、飽きることはまったくなかった。
★★★☆参考:
竹林軒出張所『鬼に訊け 宮大工 西岡常一の遺言(映画)』竹林軒出張所『宮大工西岡常一の遺言(本)』竹林軒出張所『五重塔(本)』竹林軒出張所『桂離宮 よみがえる日本の美(ドキュメンタリー)』竹林軒出張所『よみがえる金色堂(映画)』