万華鏡の女 女優ひし美ゆり子
ひし美ゆり子、樋口尚文著
筑摩書房
60〜70年代に活動した女優、ひし美ゆり子のインタビュー集。
ひし美ゆり子、知ってる人はよく知ってるが知らない人はまったく知らないという女優である。
『ウルトラセブン』でアンヌ隊員を演じた菱見百合子のことで、当時の子どもにとっては憬れの存在だった。子ども時代は目鼻パッチリのとんでもない美人のように感じていたが、今写真で見るとどちらかと言うと素朴な顔立ちである(美人には違いないが)。そのひし美ゆり子自身から、『ウルトラセブン』のことや、それ以前・それ以降の出演作、女優活動などについて聞き出すインタビューがこの本のほとんどを占める。著者というか聞き手は、樋口尚文という人で、よく知らないが映画評論家なのだろうか。70年代の映画について、マニアックな知識を披露しながら、ひし美から話を引き出している。同時に、当時の映画界、テレビ界の状況も折りこみながら、60〜70年代の映画・テレビ界の動きをみごとに反映した1女優(ひし美ゆり子)という図式で話をまとめている。
ひし美ゆり子は、1960年代に「ニュータレント」(他社の「ニューフェース」みたいなもの)として東宝に入社し、その後、豊浦美子の代役として特撮テレビドラマ『ウルトラセブン』にレギュラーとして出演する。子ども向け番組である『ウルトラセブン』の後は、成人向け映画にも出演している他、ヌード写真も公表されたりしていて、相当多彩な経歴を持っていると言える。ただ、ひし美ゆり子自身、主役を張るような女優でもなくて、大作に登場することなく事実上引退していたため、日の当たる場所に出てくることはなかった。だが90年代に、かつて『ウルトラセブン』で育った人々を中心にアンヌ・ブームみたいなものが始まって、再びひし美が脚光を浴びることになり、過去の出演作品が発掘されることになったのだった。1993年にNHKで『私が愛したウルトラセブン』というドラマが放送され、田村英里子が菱見百合子役を演じたりしたのも、アンヌ・ブームのきっかけだったのかも知れない。
僕自身は、5年ほど前に
『セブンセブンセブン アンヌ再び…』(ひし美ゆり子の自伝エッセイ)を読んでいたんだが、成人映画の件はまったく記憶に残っていなかったんで、今回少し驚いたほどであった。成人映画に出ていたなんてにわかに信じられない部分もあるが、本人の口からいきさつが語られていることもあって、違和感はまったく沸かなかった。とにかく、ひし美ゆり子という人、あっけらかんとした性格で、監督やプロデューサーから声がかかったら出演していくという「流され」女優だったそうで、そのために、フィルモグラフィーを見ると、出演映画が多岐に渡っていて当時の映画界の変遷を見事に反映している(ちなみにこれは、著者の樋口尚文の受け売りである)。そういうことも含めて「万華鏡の女」というタイトルになったということらしい。ちなみに「万華鏡の女」というのは「自らが強烈な個性や主張を発散させるのではなく、大衆メディアの変遷を異色な形で映し続けた」女優という意味なんだそうだ。それからこのタイトルを提案したのは、他ならぬひし美ゆり子なんだそうで、そういうエピソードも面白かった。
★★★参考:
竹林軒出張所『ウルトラセブン (1)〜(3)(ドラマ)』竹林軒出張所『ウルトラセブン (42)、(43)(ドラマ)』竹林軒出張所『私が愛したウルトラセブン(ドラマ)』竹林軒出張所『乙女オバさん(本)』竹林軒出張所『美しく狂おしく 岩下志麻の女優道(本)』竹林軒出張所『仲代達矢が語る 日本映画黄金時代(本)』